今度は免震装置のデータ不正に「あきれるばかり」と批判した各紙
◆顧客への裏切り行為
高品質な「モノづくり」で世界的に評価されてきた日本の製造業で、今度は地震による建物の揺れを抑える免震・制振装置の検査データに改竄(かいざん)が行われていた――。
先週半ばに東証1部上場で油圧機器大手のKYB、今週23日には東証2部上場の産業部材メーカー、川金ホールディングス(HD)子会社2社で、免震・制振装置(オイルダンパー)での性能検査データ改竄が明るみになった。
地震国日本での免震装置のデータ不正という事柄だけに、各紙ともKYB事件後すぐに社説で論評を掲載した。
掲載順に見出しを並べると、18日付日経「顧客の軽視映す免震不正」、19日付朝日「徹底的な解明を急げ」、毎日「防災の基盤を揺るがした」、東京「地震国を覆う深い不信」、本紙「信頼揺るがした責任は重い」、20日付産経「早急な交換に全力挙げよ」、21日付読売「安全性への信頼が損なわれた」である。
列挙した通り、各紙とも厳しい批判ばかりである。日経が「官民が多発する大地震への危機感を強め、防災や減災の対策に取り組んでいるときに、あるまじき行為だ」と断じれば、産経は「地震が多い日本で『安心・安全』を求める顧客に対する深刻な裏切り行為といいうほかない」、読売も「顧客を裏切る行為にほかならない」と容赦ない。毎日はそれらを通り越して、「地震国である日本の大型機械メーカーが、防災の基盤を揺るがすようなずさんな品質管理をしていたことは信じられない」とあきれ顔である。
◆大袈裟過ぎる毎・読
もっとも、KYBは改竄が見つかった製品について、検査で国の評価基準または顧客企業の基準値からは外れたものの、震度6強から7程度の地震にも十分に耐えられることを確認したと説明しているから、その点では、毎日の「防災の基盤を揺るがす…」との批判は大袈裟(おおげさ)過ぎるが、本紙などが指摘するように、「それで不正が許されるわけではない」のは確かである。
改竄の期間は2003年から今年9月までで、この間、検査は従業員1人で行い、口頭で不正を引き継いでいたという。00年以降の8人が納期に間に合わせるめたに改竄に関与したことを認めている。
この間には、東洋ゴム工業の子会社が免震装置のゴムの性能データを書き換えていたことが発覚しており、日経は「同じ免震装置での不正が問題となっているさなかでも改ざんを続けていた感覚には、あきれるばかりだ」としたが、同感である。
読売も、不正に関わった検査担当者が「納期に間に合わせるためだった」と釈明していることに、「製品の安全性より、利益を優先させてことになる。顧客軽視も甚だしい」とした。
この読売の評価も先述の毎日と同様、安全性の必要最小限は確保しているという点で、多少オーバーな表現と言えようか。
◆冷静に論評した朝日
では、民間企業として営利追求は当然としても、今回のKYBに限らず、昨年秋以降、神戸製鋼所や三菱マテリアル、日産自動車など日本を代表する製造業でなぜ品質不正が続くのか。
これについて、はっきりと「その背景には、国や企業の品質基準が高いという意識があるため、少々基準を下回っても安全だという現場の甘い認識がある」と指摘したのは本紙で、さらに「品質管理を現場任せにしてきたことも原因の一つだ」としている。
朝日も「かつて日本企業の製品は『過剰品質』とも言われたが、実態が『架空品質』であったとすれば、ものづくりへの信頼が崩れてしまう」として「各企業は改めて点検しなければならない」としたが、その通りである。
今回の論評では、経済紙の日経でさえ、「あるまじき」や「あきれるばかり」など形容のきつい表現が目立ったが、ひときわ冷静さを感じさせたのは朝日である。
きつい形容があったのは、冒頭の「安全を守るための装置の品質に、長年にわたる不正があった。衝撃は大きい」ぐらいで、社説見出しも前述の通り、冷静沈着である。
内容も今回は「建物の安全を担う装置の製造現場が、なぜここまでむしばまれてしまったのか」「不正の関与者はもちろん、長期間、大規模な不正を招いた経営の責任も厳しく問うべきだ」として妥当と言える。
(床井明男)