新NAFTA合意に最悪回避も「禍根残した」と米国を批判する各紙

◆数量規制など問題視

 「新NAFTAに盛る規制を拡散するな」(4日付日経)、「米の保護主義政策拡大を懸念」(本紙5日付)、「禍根残した米国の恫喝外交」(6日付読売)、「管理貿易の危惧を強めた」(7日付産経)、「数量規制は認められない」(8日付毎日)――。

 米国とカナダ、メキシコが北米自由貿易協定(NAFTA)の見直しで合意したことを受けての各紙社説(日付順)の見出しである。

 各紙そろって、米国の恫喝(どうかつ)的な手法を非難するとともに、見直しの内容を問題視する厳しい論調である(朝日、東京はなし)。

 合意そのものについては、「1994年に実現した北米の自由貿易圏が瓦解し世界経済を混乱に陥れるという最悪の事態は、免れた」(日経)、「歓迎できよう」(読売)とは言うものの、とにかく問題山積という内容なのである。

 各紙が問題視したのは、自動車の輸出数量規制と為替条項である。輸出数量規制は、カナダやメキシコが米国に輸出する自動車に年間260万台の枠を設け、その上限を超えた場合には25%の高関税を課すというもので、日経は「国際ルールに反する管理貿易の見本と言っていい」と非難する。

 米国は韓国やブラジルにも同様な対米輸出規制をのませており、「トランプ米政権の裁量でモノの流れを管理すれば、資源の効率的な配分を阻害し、世界経済の成長を妨げる恐れがある」(日経)というわけで、産経なども「数量自体を抑え込む手法は、関税以上に保護主義色が強い」と懸念する。

◆日本への影響懸念

 もう一つの為替条項は、「為替介入を含む競争的な通貨切り下げを自制する」(日経)というもの。通貨安競争の回避は主要20カ国(G20)の合意事項であるから、これに参加する3カ国が順守するのは当然だが、今回のNAFTA見直しで改めて明記することに対して、日経は「他国の通貨政策や金融政策に干渉する口実を与え、市場を混乱させるようになりかねない」と警戒感を示すが、尤(もっと)もである。

 では、なぜ問題の多い見直しに当初反対していたカナダ、メキシコが一転して合意したのか。もちろん、NAFTA崩壊による貿易停滞や市場の混乱など世界経済への悪影響を考慮したという面もあろう。

 だが、直接的にはやはり、輸入車への制裁関税をちらつかせる米国の恫喝外交から、「(自国の)基幹産業の自動車への制裁は回避したかったのだろう」と読売は指摘したが、その通りである。

 さらに、今回の合意で各紙がそろって強く心配するのは、日本などへの影響、すなわち、「米政権はNAFTA再交渉を今後の通商交渉のひな型にするという。これが日本に対する理不尽な要求につながらないか」(産経)、「同様の高圧的な態度をとらないか」(読売)という点である。

 日経、毎日などはさらに、「トランプ政権はこの合意に味をしめ、米国との貿易協議を進める日本や欧州連合(EU)にも似たような要求を突きつける公算が大きい」と深い憂慮の念を示す。

 その際、読売は、まずは保護主義の弊害を粘り強く説くことが大切だとし、「理不尽な要求は毅然(きぜん)としてはねつけ、国益を守り抜く必要がある」と強調したが、現実の対米交渉でそうできるか。産経は「米国の『脅し』を認めない毅然とした姿勢を貫けるかが問われる」としたが、その通りである。

◆TPP超える譲歩も

 毎日は、過去の日米自動車摩擦で日本は輸出規制をのまされたが、米国メーカーの経営は好転しなかった点を挙げ、「米国が数量規制で自国産業を守っても高コスト体質を温存するだけだ」と指摘。対米交渉で日本は、EUと連携して、米国にそうした事実を強く説き、保護主義政策の撤回を求めるべきだ、とした。

 これまた、その通りなのだが、貿易赤字の縮小を重視するトランプ政権がそれに聞く耳を持つかどうかである。

 さらに日本にとっての懸念は、本紙が指摘した、「カナダが新協定で、乳製品に関して環太平洋連携協定(TPP)の合意水準を超える市場開放を米国に約束した」点である。日本はTPPの合意水準を超える譲歩には応じない方針だが、それを貫けるかどうか。心配は尽きない。

(床井明男)