北朝鮮の脅威に重点を置く平成30年版防衛白書を素っ気なく報じた朝日

◆対照的な読売の報道

 「白書」。政府が外交・内政など各分野の現状を明らかにし、将来の政策を述べるために発表する報告書のことだ。英国政府の報告書が白い表紙を付け「ホワイト・ペーパー」と呼ばれたことから、わが国では「白書」となったという(三省堂「大辞林」)。

 その白書の一つ平成30年版防衛白書が8月28日に公表された。朝日30日付のニュース解説「いちからわかる!」が「防衛白書って何?」と題し、問答形式で紹介している。抜粋すると―、

 アウルさん なぜ注目されるの?

 A 防衛に関する内容は機密事項(じこう)とされやすいから、防衛省が公(おおやけ)にする数少ない資料といえるね。日本政府が各国の軍事動向をどのように分析し、評価しているかという『公式見解』を示していて、専門家らの研究に役立つし、国内外から視線が注がれるんだ。

 ア 外交にも影響(えいきょう)を与えるんだね。

 A 70年の創刊号では全体的に「国防」の重要性を説き、冷戦期は「仮想敵国」であるソ連の軍事態勢に紙幅(しふく)をさいた。最近は、中国と、核(かく)・ミサイル開発の動きを「脅威(きょうい)」と位置づけた北朝鮮の動きをくわしく書いている。時代ごとに日本の置かれた安保環境を反映している。

 なるほど、まずは無難な解説だと思う。ところが、「国内外から視線が注がれる」と言う割には朝日の白書報道は素っ気なかった。一報の28日付夕刊は1面だが、わずか2段見出し。29日付は5面に解説を載せるが、3段見出し。白書に付き物の要旨もない。

 この扱いとは対照的に視線を注いだのは読売だった。28日付夕刊1面では「北『これまでない脅威』 『米朝』後も変わらず」と大きく報じ、29日付朝刊は2面に分析記事、特別面に1頁を割いて要旨を載せている。朝日との落差は大きい。

◆社説で不満を露わに

 今回の防衛白書は昨年7月から今年6月までの分析で、北朝鮮がミサイル発射と核実験を繰り返したから、おのずから白書もそこに重点を置いている。他紙も読売とほぼ同様の見出しで報じている。

 なぜ朝日の扱いが小さいのか。29日付社説は「(白書の)広く国民の理解を得るという目的に照らすと、不十分な点を指摘せざるをえない」と不満を露(あら)わにしている。ここにヒントがありそうだ。

 不十分の一つに「緊張緩和の流れや影響について、ほとんど分析していない」ことを挙げ、「いま肝要なのは、北朝鮮の意図を慎重に見極めながら、対話が後戻りしないよう働きかけることで、脅威を過度に強調することではない」と述べている。

 つまり朝日は白書が北朝鮮の脅威を「過度」に強調していると捉え、それに乗らないために小さく扱った。そんな意図が浮かんでくる。「対話が後戻りしないよう働きかける」のは外交で、防衛には筋違いな注文だ。

 読売の見方は朝日と全く違う。読売30日付社説は「米朝首脳会談後も核・ミサイル放棄の道筋は不透明だ。緊張緩和が一時的なものにとどまる懸念は捨て切れまい」と指摘し、こう言う。

 「白書は、北朝鮮が『米国に対する抑止力を確保した』と『過信・誤認』した場合、挑発行為を再び始める可能性に言及した。日本を射程に収める数百発の弾道ミサイルを配備している現状を踏まえると、脅威の評価を変えなかったのはやむを得ない」

 それで読売はミサイル防衛の強化を促すが、朝日はこれに水を差し、9月1日付社説「防衛概算要求 歯止めなき拡大路線」は陸上配備型迎撃ミサイルシステムの導入に「大きな疑問符がつく」と噛(か)みついている。

◆中国分析に産経異議

 防衛白書をめぐる報道では実は産経も素っ気なかった。夕刊がないので第一報は29日付だが、2面で触れただけだ。不思議に思っていると、ネット版9日付に白書の中国分析に異議を唱え「中国評価は『据え置き』なぜだ?」との記事がアップされていた。産経は朝日とは百八十度違った視点で白書に不安を抱いていたわけだ。それでも白書は白書としてきちんと報じるべきだ。

 来夏の参院選に向け防衛論争が国会を覆う予感を抱かせる。朝日は「戦争予算」のレッテルを貼る布石を打っているのだろうか。

(増 記代司)