現実的な核軍縮論を無視し代案も示さず安易に安保体制を否定する朝毎
◆批准進まぬ核禁条約
8月に入ると核をめぐる論議がにわかに高まる。広島、長崎と原爆の日が続くからだが、とりわけ今年は一部新聞に「核廃絶」の文字が躍った。
昨年、国連で核禁止条約が採択され、これを後押しした団体がノーベル平和賞を受けた。だが、日本政府は条約に賛同しない。それで朝日は「核禁条約 首相は背を向けるな」(10日付社説)と安倍批判の声を一段と高めている。
もとより核兵器を無くす願いは誰も否定しない。だが、廃絶を叫べば、それでなくなる? いや、世界はそれほど甘くない。条約は50カ国が批准して初めて発効するが、批准国は1年経た今も14カ国にとどまる。核廃絶のお題目だけで実現可能なのか、条約賛同国にも迷いがある。
例えて言えば、泥棒をなくせと叫ぶだけで泥棒がいなくなるのか。そうではあるまい。防犯カメラや地域住民の声掛けなど防犯策を講じて初めて泥棒被害を減らせる。それが現実的な安全策だ。
同様に核の惨禍を2度と起こさないためには核廃絶の叫びだけでなく、核を使わせない現実的な戦略が必要だ。いわゆる核抑止力だが、これには朝日などのリベラル紙は否定的だ。思考回路が9条護憲=防衛力否定=核廃絶とつながっているからだろう。
◆核軍拡の現実を詳報
産経はそんな核廃絶論に危惧を抱き、主張で「平和守る現実的な議論を」(6日付)、「核と国連事務総長 『現実』を踏まえ発信した」(10日付)と2回も「現実」を見出しに掲げて核問題を論じている。裏を返せば、それだけ非現実論が多い。それを本紙社説はずばり「絵空事」と表現している(6日付)。
では、核をめぐってどんな現実があるのか。毎日7日付は今年6月に公表されたストックホルム国際平和研究所の18年版報告書が「すべての核兵器保有国が新しい核兵器システムの開発を進め、現存するシステムの近代化を行っている」と核軍拡の現実をつまびらかに報じている。
それによると、世界の推定核弾道弾数(18年1月現在)は計1万4465発。内訳は▽ロシア6850発▽米国6450発▽フランス300発▽中国280発▽英国215発▽パキスタン140~150発▽インド130~140発▽イスラエル80発▽北朝鮮10~20発だという。
これら核保有国は全て核禁条約に反対なのだ。保有上位5カ国は世界平和の責任を担う国連安全保障理事会の常任理事国だ。米国と同盟を組むドイツやイタリア、ノーベル平和賞を授与するノルウェーなどの北大西洋条約機構(NATO)加盟国、それに日本や韓国も賛同しない。いずれも米国の「核の傘」を必要とするからだ。
そのことは日本を取り巻く安保環境を見れば一目瞭然(りょうぜん)だろう。6月に米朝首脳会談があったが、北朝鮮は「完全かつ検証可能で不可逆的な核放棄」を確約せず、核放棄は不透明極まりない。
中国は今年1月、10発の核弾頭を搭載する多目標攻撃の大陸間弾道ミサイルの発射実験を行った。ロシアは大陸間の海中を進む核武装した原子力推進の魚雷を新たに開発中だ。
◆核の惨劇をどう防ぐ
それでも朝日は「核抑止力を信奉する保有国。その『核の傘』に頼る同盟国。旧態依然の安全保障の縛りが続く限り、核軍縮は進まない」(6日付社説)と断じ、毎日社説は前記の核軍拡記事を自ら軽んじ「『唯一の被爆国』の筋通せ」(9日付社説)と安倍政権に条約賛同を迫っている。
だが、「唯一の被爆国」だからこそ、核抑止力や「核の傘」をもって核の惨劇を防ぐのが本来の筋ではないのか。安倍首相は保有国と非保有国の「橋渡し役」を目指し、長崎を訪れた国連事務総長も現実的な核軍縮論を説くが、朝毎は聞く耳を持たない。
それなら、中国や北朝鮮の核の脅威から日本をどう守るのか。「旧態依然の安全保障の縛り」を否定するなら、どんな新機軸があるのか、そのことに朝日は一言も触れない。
まさか非武装中立か、それとも日米安保条約を破棄し中朝の軍門に下るのか。いずれにしても代案を示さず、安易に安保体制を否定するのは無責任の極みだ。朝毎の絵空事を真に受ければ、国民の命はいくらあっても足りない。そう悟らされる8月だ。
(増 記代司)