山根明氏の素性に焦点当て告発への反論を聞き出せなかった文春・新潮

◆韓国との縁を隠さず

 週刊誌はお盆休みを控え合併号を出している。値段も中身も普段の号よりぶ厚い。その中で旬な話題と言えば日本ボクシング連盟の終身会長である山根明氏(78)の一連のスキャンダルだ。

 山根氏は暴力団との関係や助成金の不正流用、審判不正、パワハラなどをボクシング連盟有志333人から告発され、スポーツ新聞やワイドショー、週刊誌に追い掛け回される事態となり、ついに8月8日「辞任」を表明するに至った。

 週刊文春(8月16・23日号)と週刊新潮(同)は辞任の内容は間に合わなかったものの、いずれも山根氏のインタビューと手記を載せている。テレビでも伝わってくるように、この人はメディアの取材によく応じる。自らは「(やま)疚しい」と思っていないからだろう。よく取材を受ける人物となると、各メディアはどう独自の切り口、視点で取り上げるか、腕の見せどころとなる。

 文春は「山根明『悪の履歴書』」の見出しで山根氏に長時間インタビューしたものをまとめた。関心の的の一つだった「出自」について、山根氏本人が語っている。韓国釜山から2度密航し、大村収容所に入れられたこと、身元引受人があって、その後帰化したことなどを告白している。

 ネットでは早くから「山根氏韓国人説」が取り沙汰され、官報に載った帰化の記録まで“暴かれて”いたが、山根氏本人は別に韓国との縁を隠してはいない。日本人の父と韓国人の母との間で大阪堺市に生まれたことは事実で、その後、釜山に疎開し、日本に残った父を慕って密航を繰り返した、と事情を語っている。

 山根氏の中では日本と韓国は父母の祖国であり、区分できない。「日本国の日の丸大好きなんですよ。最高に愛しています。だけど同時に韓国、北朝鮮愛してます」と新潮に語っている。山根氏の言動から強烈に放射される“大和民族らしくない”振る舞いの理由の一つがこの出自にあると思えば、妙に納得できる。

◆告発者側の裏面暴露

 両誌とも本人から話を聞いているのだから、記事も大差ない内容となるのは当たり前だが、大和民族らしくない山根氏の“強気”の理由について、明らかにしたのは新潮の方だった。

 山根氏は同誌に、「だいたい、僕のヤクザ関係ばかり批判されて大悪人にされていますけど、告発者側の裏にいる人物もヤクザと深い関わりを持っていますよ」と暴露しているのだ。文春の記事はこの内容に触れていない。

 「澤谷廣典(ひろのり)いう男で、去年まで近畿大学ボクシング部の総監督を務めとったんですが、コーチを相手に暴力事件を起こしたんで僕が辞めさせました。それで逆恨みして今回の告発の絵図を描いとるんです」というのだ。澤谷氏は「山健組の傘下組織の組員みたいなもんで、指はないし、刺青も入っとる」という。

 同誌は澤谷氏に直接確かめたところ、これを認めた。文春が聞き出さなかったのか、書かなかったのかは不明だが、澤谷氏の存在をリングに引っ張り出してきたのは新潮のお手柄だ。

 もっとも「今回の騒動には権力闘争の側面も透けて見えるのだ」と同誌は書く。そうなると、日本ボクシング連盟の内紛が根底にあり、一方の側の情報提供にメディアが踊らされ、会長追い落としのお先棒を担いだきらいもなきにしもあらず、ということになる。

 「彼らは何としてでも僕を追い出したいんでしょうけど、それは10年、100年かかってもできません。私は会長を辞めるつもりは一切ない」と山根氏は新潮に断言した。その直後、山根氏は会見を開き辞任を発表した。

◆建設的な報道を期待

 この週の各誌は山根氏の素性に焦点を当てた。だが、山根氏の口からは有志らの告発への回答、反論は何も聞き出せていない。「壮絶人生」(文春)、「梁石日の『血と骨』もかくやという人生」(新潮)を聞かされ、受け取りようによっては「山根という人も大したものだ」と読者を感心させるような記事になってしまっている。

 山根氏が澤谷氏の名前を出して反撃を開始し、ますます泥仕合の様相を呈してきたが、より重要なのは日本ボクシング連盟の抱える問題が解決され、五輪出場が支障なく実現できることの方ではないか。建設的な意見を探し、目を向けることを各誌に期待したい。

(岩崎 哲)