安倍首相ら懇談会写真で非主流派の政権批判誘うTBS「時事放談」
◆被害と併せ印象操作
この夏、異常気象が日本列島を襲い、テレビの報道番組も記録的豪雨、危険な暑さ、東から西に逆走する台風、それらの気象災害を多く取り上げている。その対策は政治に関わるが、ここで「赤坂自民亭」という自民党議員らの懇談会に安倍晋三首相が7月5日に招かれ、記念写真に収まった写真による西日本豪雨への対応の批判が目立った。
しかし、腑(ふ)に落ちないのは、災害発生後に事前の会合を対処上の瑕疵(かし)として批判していることである。テレビの各ニュースが問題にしたのは10日になってからだ。首相は5日午後9時38分に自宅に帰る前、赤坂議員宿舎の懇談会に午後8時28分に立ち寄った。1時間も滞在してない。ほかの議員たちはいわば自宅だ。
首相は午後9時19分には報道各社のインタビューに応じ、マスコミも懇談会のことを知っていた。同日その後、西村康稔官房副長官がツイッターに写真を投稿。特別警報が出たのは1日後の6日夕方からだが、ニュースの話題を占めたのは大雨よりオウム死刑囚の死刑執行だった。
10日に仕掛けたのはテレビというより共同通信。「西日本豪雨で被害が迫った5日夜、安倍晋三首相や自民党議員ら約50人が宴会を開き、会員制交流サイト(SNS)に写真を投稿していたことに批判が高まっている。参加者には多数の死者が出た広島選出の岸田文雄政調会長や、翌6日に死刑執行を控えた上川陽子法相も。…」との配信だ。新聞では11日付の地方紙に載った。
この記事が恣意的なのは「参加者には多数の死者が出た広島選出の」と書くことで、洪水被害中に宴会をした印象を与えることだ。テレビの各ニュースは、凄惨(せいさん)な被災地の被害映像と併せて扱った。
◆討論で蓮舫氏勘違い
だからであろう。15日放送のNHK「日曜討論」で、立憲民主党の蓮舫副代表が「自民党に強く申し上げたいが、総理、防衛大臣、法務大臣、あるいは官房副長官が6日の夜に不適切な会合をされていました」と発言したのは。後から司会が「5日」と訂正したが、蓮舫氏は6~8日の特別警報中の避難指示の在り方について発言した中で「会合」を批判したので、テレビ等によって特別警報中のことと勘違いしたと察する。
15日放送のTBS「サンデーモーニング」は「赤坂自民亭に批判の声」として扱い、11日に岡山県倉敷市の避難所の被災者に「一般の住民が大変な状況にある時に宴会をするのはもってのほかだ」との声を引き出していた。が、政権批判のため、災害前の会合の写真で非常時に家財を失うなど被害意識の極みにある被災者の精神状態につけ込むのもいかがなものか。
西村副長官は参院内閣委員会で12日、「災害発生時に会合をしていたかのような誤解を与えて多くの方が不愉快な思いをされたので反省しているし、お詫び申し上げたい」と、陳謝した。しかし、TBSはその後も、29日放送の「時事放談」、1週前の22日放送の「時事放談」で「赤坂自民亭」を取り上げた。
◆写真が大きいパネル
同番組では話題ごとに新聞の切り抜きを貼ったパネルを用いるが、「赤坂自民亭」に関しては、首相を真ん中にした大きな写真の左右に小さめに新聞切り抜きが貼られた。資料パネルというより映像に訴える写真パネルである。
同番組は、7月から自民党総裁選をテーマに同党議員が出演しているが、司会の御厨貴氏が「どうでしょうか。この状態の自民党をどう考えるんでしょうか」と迫るのだ。29日放送に出演したのは自民党谷垣派の中谷元氏と石破派の鴨下一郎氏だが、「この写真を流布することが果たして良かったのか。国民から見ればたるんでいると見える」(鴨下氏)、22日放送に出演した無派閥の村上誠一郎氏は「緩みとしか言いようがない」など、非主流派から安倍政権批判を誘っている。
テレビは所詮(しょせん)、ぱっと見のメディアだ。難しい議論より映像の印象が強い。ただ、政権側にあれば大災害への対応に大きな責任を持つため、どのような批判でも受け止める姿勢が政治的に正しい。が、それをいいことに災害前の懇親会写真で「たるんでいる」など相づちを打たせ、対策の落ち度と見せるテレビには行き過ぎた印象操作を感じる。
(窪田伸雄)