英米の2人の若いリーダーによるイスラル・パレスチナ訪問に賛否

◆「歴史的」な王子訪問

 英国のウィリアム王子がイスラエル、パレスチナを訪問した。英王室のパレスチナ訪問は、70年前に英国の委任統治が終了してから初めてのことで、英メディアは「歴史的」と称賛した。しかし、和平への期待を表明する程度で、特に提示したものはない。欧州連合(EU)離脱決定で欧州各国と疎遠になり、トランプ米政権とも関係がぎくしゃくしている英国が、イスラエルなど欧米以外の地域との関係強化を目指しているというのが大方の見方だ。

 英国は、ウィリアム王子の中東訪問に政治的目的はないと説明している。だが、英国の持つ最も強力なソフトパワーである王室は、この国にとっていわば切り札。経済的にも成功し、地域での影響力を増しているイスラエルへの接近の意図が見え隠れする。

 イスラエルのニュースサイト「Yネット」は、英国は、イスラエル・パレスチナ間の対立が解決されるまで、「王室を訪問させないというのがこれまでの英国の方針だった」と指摘。駐イスラエル英総領事のフィリップ・ホール氏は、王子の中東訪問開始前に「中東和平プロセスの成功など、何かを祝うために王子が中東を訪問できる時ではないが、この地域への英国の関心を示すことができる時だ」と、英国が中東への接近を目指していることを明確にした。

 また、イスラエル人ジャーナリスト、ナダブ・エヤル氏は同サイトへの寄稿で、「英国はEU離脱決定後、ウィリアム王子や王室などの『ソフトパワー』を利用して、世界の中での居場所を探している。欧州以外の国々、中でもハイテク大国のイスラエルへの関心は強い」と、王子の中東訪問の背景を説明した。

◆「70年遅い」との批判

 しかし、かつて支配したこの地への返り咲きを狙う英国に「遅過ぎる働き掛け」(米紙ニューヨーク・タイムズ)との指摘もあり、イスラエルの左派系紙ハーレツも「70年遅い」と手厳しい。

 トランプ政権がパレスチナ和平で、露骨なイスラエル寄りの姿勢を見せる中、パレスチナ自治政府は、欧州など米国以外の仲介者を求めているとの見方もある。英国が介入すれば、自治政府は歓迎だろうが、イスラエルとしてはかえって事態を複雑にさせるだけであり、「70年遅い」という批判は、その辺へのいら立ちの表れでもあろうか。

 ブレグジット(英EU離脱)が遠く中東の情勢に影響を及ぼす可能性があることは興味深い。

 一方、ウィリアム王子訪問の直前、王子と同じく30歳代のクシュナー米大統領上級顧問がイスラエル入りし、中東和平構想の説明に当たったが、パレスチナ自治政府当局者とは会えず、交渉は不調だ。

 若く、今後、国家のリーダーになっていくとみられる2人のイスラエル訪問をニューヨーク・タイムズは「興味深い偶然の一致」と評した。英国はかつての宗主国、一方の米国は現在のイスラエルの事実上の後見役であり、2人の訪問はパレスチナをめぐる両国の歴史的な因縁を感じさせる。

◆仲介者の適性に疑問

 クシュナー氏は、義理の父トランプ大統領が「究極のディール(取引)」と呼んだ中東和平交渉を任されている。昨年暮れにも、和平構想を持ってサウジアラビアを訪問した。外堀からパレスチナへ圧力をかけていく意向のようだが、イスラエル寄りの構想にアッバス自治政府議長の理解は得られず、公表されずじまいだ。

 今回も和平構想は「ほぼ完成」と言われ、イスラエル側に説明したものの、パレスチナ当局者からは無視され、6月の後半と言われていた構想の発表もいまだなされていない。

 トランプ政権は、自治政府の反対を無視して大使館をエルサレムに移転させるなどイスラエル寄りの姿勢を取り続けており「対立への誠意のある仲介者としての立場を放棄した」(ニューヨーク・タイムズ)と指摘されている。

 その上、クシュナー氏の「ファミリービジネスはイスラエルと非常に強いつながりを持つ」(同紙)ことから、仲介者としての適格性への疑問の声もある。

 ニューヨーク・タイムズは、ウィリアム王子は「提示できるものはないものの…王室として見せ場をつくり、善意を示した」と一定の評価を下したが、クシュナー氏については、パレスチナに無視され、「真の和平へのディールはさらに遠のいた」と否定的だ。

(本田隆文)