WHOが指摘し警告した「ゲーム依存症」の弊害軽視する日経に違和感
◆早期治療の充実急務
このほど約30年ぶりに疾病についての国際的な分類を大幅に改定した世界保健機関(WHO)は、ゲーム依存を麻薬使用やギャンブルの常習行為による疾患の項目に加えた。それによると、ゲームする時間や頻度を制御できない、日常生活でゲームを最優先してしまう、ゲーム中心の生活が1年以上続く―などが当てはまると、「ゲーム依存症」と診断される可能性があるというのである。
もっとも、これらに当てはまる全ての人がゲーム依存症だというわけではない。ゲームをする時間が長くても、その行動を制御できていれば、必ずしも依存症というわけではない。
WHOは「依存症はゲーム愛好者の2~3%にすぎない」と推定しているが、それでもゲーム愛好者の100人に2、3人が依存症となる。全世界のゲーム人口は23億人と推計され、この中の4000万~7000万人が依存症という計算になるから「楽観はできまい」(読売24日付社説)、「極めて深刻な事態」(小紙・25日付・同)なのだ。
この問題をテーマに27日までに論調を掲げたのは、前記2紙に日経(24日付・同)と産経(26日付主張)を加えた4紙であるが、日経がゲーム産業を健全に伸ばしていく上で依存症問題の対応の必要を論じたのに対し、他の3紙は「病気と認識し早期対応を」(産経)などともっぱら早期治療やその充実が急務だとの主張で、視点の違いが際立った。
◆中高生への影響深刻
中でも3紙が強調したのは中高生への深刻な悪影響である。
国内では、インターネット依存が成人421万人だが「特に中高生では52万人と推計されるネット依存者の大半がゲーム依存者にもなっている」とする厚労省の研究班の分析を基に、読売は「競馬などのギャンブルや酒とは異なり、未成年に依存症の割合が高いのは、憂慮すべき状況だ」と危惧する。「勉強に励み、健全な対人関係を築くなど、人生の基礎作りをする大切な時期に、ゲーム依存症になってしまう。青少年にとって大きな損失である」と説くが、まさに同感である。
小紙は「特にゲームは勉強やスポーツに比べて簡単に達成感が得られるため、依存症に陥りやすいとも言われる」オンラインゲームの特性に言及。中高生の場合、ゲーム以外のことは何も手につかない“中毒状態”や不登校になったりし、学校を退学したりするケースもあるほか「うつ病や自殺のリスクも高まる」ことなどの弊害を警告するが、弊害を強調してもし過ぎることはなかろう。
対策はどうすればいいのか。残念ながら、日本では国立病院機構久里浜医療センターが専門外来を設けるなど、診療や研究が行われてきているが「実態把握を含めて政府の対策が十分とは言い難い」(産経)、「治療はカウンセリングが中心だが、国内で相談に対応できる医療機関は25か所程度だ。専門医も不足している。治療体制の整備が大きな課題」(読売)という何とも心もとない状態。
当面は「情報機器が欠かせない現代だからこそ、上手に使いこなす教育が大切だ」(産経)、「子供たちが依存症に陥らないよう、周りの大人が目配りして、予兆を捉えたい」(読売)、「家族の絆でネットやゲームへの依存を防ぎたい」(小紙)と家族や周囲の大人の対応に頼るしかないのである。
◆効用を強調する日経
一方、「対策に手を尽くしながら、産業として健全に育てていくことを考えたい」と説く経済重視の日経は、世界のゲームソフト市場が2017年に10兆円超で「前年比で2割伸びた」ことを指摘。「迫力ある映像や物語性など人をひき付けるノウハウは、店舗の集客や地方のイベントにも応用されている。脳を刺激するゲームは高齢者の介護予防にも活用される」と、まずはスマートフォンなどのゲームの効用を強調する。
その上で、WHOが「ゲーミング障害」と呼ぶ警告について言及。「スマホメーカーがアプリの利用時間を制限したり、自治体が子供の利用ルールを定めたりするなど、行政と業界、教育現場、家庭が連携して弊害をなくす取り組みが必要だ」と指摘する。「個々の消費者が節度ある利用で自らの身を守ることも忘れてはならない」とまとめるのだが、弊害を軽視し、どう対策するかの論点が乏しいことに違和感が残った。
(堀本和博)