予知研究の現状を見据えるべきだった週刊ポスト「地震前兆現象」記事

◆川にアユが大量発生

 週刊ポスト(6月15日号)に自然災害関係の興味引かれる記事が出ている。「警告レポート これは首都直下型地震の前兆か?」がそれ。

 「関東大震災、阪神大震災、そして東日本大震災……それらの発生前に観測された“奇妙な現象”が今年、関東を中心に日本各地で観測されている」(リード文)という。「神奈川では、県内を流れる相模川を遡上するアユが大量発生して」おり、神奈川県の漁業振興会の担当者は「4月1日から5月27日までで確認されたアユは4600万尾を超えました。1999年から昨年までの平均は400万~500万尾です」と。普段の年と比べ単純計算でも10倍というアユの大量発生は驚くべき現象である。

 「例えば、東北の三陸地方では古くから『イワシが豊漁だと大地震が起こる』との伝承があり、明治三陸地震(1896年)と三陸沖地震(1933年)の直前にはいずれもイワシが豊漁だった記録がある」と続ける。

 ほかに今年2月に台湾東部で起きたマグニチュード6・4の大地震の1カ月前、また16年4月の熊本地震発生の1カ月半ほど前に、それぞれ近海で「ワニグチツノザメ」という深海にのみ生息する希少なサメが発見されていた。

 これらの異常現象に対し、京都大学名誉教授で魚類学者の中坊徹次氏は「(サメは器官に電気センサーに等しい機能を持ち)そのセンサーが地震前の地殻変動で生じる電流などを察知している可能性は考えられる」「(アユやイワシについては)低周波の音や水流を感知する『側線』という器官を持ち、魚は人間よりもはるかに感覚器官が優れている。魚類学者の視点で見れば、アユの大量発生と地震に何らかの因果関係があるように思います」と言い切っている。

◆出没する野生の動物

 さらに記事では「魚類だけでなく、哺乳類も異変を察知している可能性がある」と畳掛け、イルカやクジラの座礁、震源地近くでのクマ、シカ、イノシシ、アライグマの出現例を挙げている。「クマなど野生動物の出没については、ドングリの不作など別の原因がある可能性も大きいでしょうが、地震の前兆を察知しての異常行動であることは否定できない」(獣医師の太田光明・東京農大教授)という。

 なるほど、ネズミなどが不穏な動きを見せるのは地震が起る兆候だという話は昔からある。そしてそのメカニズムは分からないが、あり得ることだと少なからぬ人々が思っているのではなかろうか。

 これに対し、わが国では1965年、科学的な地震予知の研究が国家的プロジェクトとして始まった。体には感じないような極微細地震を計測することで来るべき地震を予知するという方法で、そのための地震計測網づくりに励んできた。だが、これまで一度も予知をしたことはない、したことがないから失敗したこともないという体たらくだ。

 熊本地震ではたて続けに2度の激震が起きたが、最初のはもちろん2度目の揺れさえも予知し警告することはできなかった。この種の地震予知の研究は破綻しているのである。

 むしろ今日では生物的、地質的、物理的な前兆現象とされる宏観(こうかん)異常現象というものの研究が盛んになっている。変化する電磁気現象は地震予知にとって特に重要な物理現象であり、地震前後の変化は上層大気(電離圏)までもその影響が及ぶことも知られてきた。これらを研究するため新設された日本地震予知学会は物理学者たちも集まっている。

◆電磁気現象で予知も

 これらは地震までの予兆期間が1カ月から数日以内の短期地震あるいは島などの狭い地域における予知に有効であるということが分かっている。地震予知は多くの分野の研究者間での協力によって解明され、動物の異常行動などを電磁気先行現象と関係付けて論じられるようになった。

 記事は「地震学者による『予知』がなかなか成果を残せない中、地震大国に住む我々にとって、警戒すべき兆候ではありそうだ」と締めているが、特段、最近の学問傾向を見据えての提言ではない。動物の異常行動と地震予知を結び付けたことは、ある意味目新しいが、今日の科学的成果を踏まえればさらに説得力があったように思う。

(片上晴彦)