少子化問題が深刻化する中、能天気に低次元な「言葉狩り」に終始する毎日
◆人口減対策進める仏
生まれた赤ちゃんは昨年、戦後最少の94万人。1人の女性が生涯に産む子供の推計人数を示す「合計特殊出生率」は1・43で、2年連続で低下した。出生率は2・07あって初めて人口が維持できるから、人口は減るばかりだ。昨年1年間では約40万人減った(各紙2日付)。
こんな数字を突き付けられると、改めて少子化の深刻さが知れる。これはわが国だけの問題ではない。人口減を経験した国は大いに苦慮してきた。フランスがそうだ。
仏人口統計学研究所のF・エラン所長によると、第1次世界大戦で二つの悲劇があった。第1の悲劇は、50万人もの兵士が死亡したこと、第2の悲劇は本来生まれるべき子供たち50万人がその期間に生まれなかったことだ(『フランスの少子化対策の実情と課題』保健福祉広報協会)。
兵士の多くは若者だ。それで第1次大戦と第2次大戦の間に出生率が非常に低下した。1938年に最も高齢化が進んだ国になった。そこからプロナタリスト政策(出産奨励)が強力に推進された。
家族政策は今も続いている。30以上の施策があり、子供の年齢、人数などに基づき家族に対する給付を決める。それには社会的再配分のための資産調査(ミーンズテスト)に基づく給付もあれば、減税(家族係数制度や税分割システム)もある。
子供に対する支援策は常に論議の的だ。第3子の特別支援をすべきか、母親には家庭で2、3年の長期育児休暇を与えるべきか、第2子で家庭と仕事を両立させるようにするか。そんな論議が続いているという。
◆加藤発言を放言扱い
長々とフランスの話を持ち出したのは、わが国があまりにも能天気だからだ。とりわけメディアは日本をつぶしたいのか、低次元な「言葉狩り」に終始している。
自民党の加藤寛治衆院議員が派閥の会合で「私は結婚式(のあいさつ)では『ぜひとも3人以上、子供を産み育ててほしい』という話をする。努力しても子供に恵まれない方に無理を言うのは酷だから、そういう方々のために必要なんです、と」などと述べた。
フランスの論議から見れば、加藤発言を取り立てて問題にすることもない。ところが、クレームを付けられたのか、会合後、加藤氏は「女性蔑視との誤解を与えた」として発言を撤回した。これをメディアは「放言・暴言」扱いし盛んに批判した(毎日5月10日付)。
昨年、自民党の山東昭子元参院副議長が「子供を4人以上産んだ女性を厚生労働省で表彰することを検討してはどうか」と発言してヤリ玉に挙げられた。
今年初め、大学教員や弁護士らでつくる「公的発言におけるジェンダー差別を許さない会」なる団体が問題発言の2017年ワーストを選ぶネット投票を行ったところ、票が最多だったのは山東発言だったという。もっとも投票数は1457人。ネットの数としてはいかにも少ない。一部ジェンダー学者らの独り善がりのネット投票と見られるが、これも毎日が大げさに報じていた(1月10日付)。
◆常識的な萩生田発言
もう一つ「言葉狩り」に遭っているのは自民党の萩生田光一幹事長代行だ。宮崎市での講演で0~2歳の乳幼児の養育に関し「言葉の上で『男女共同参画社会だ』『男も育児だ』とか格好いいことを言っても、子供にとっては迷惑な話だ。子供がお母さんと一緒にいられるような環境が必要だ」などと述べた。
これを毎日は28日付社会面の肩に4段見出しで「『男が育児 子供に迷惑』自民・萩生田幹事長代行発言」と、まるで大事件が起こったかのように報じている。毎日独自の記事でなく、共同通信の配信モノのようだが、それでもこれに飛び付き「大ニュース」に仕立て上げた。
前掲書にフランスの「子供の世話をしているのは誰か? 母親と父親の仕事の分担」の調査結果が載っている。それによると、「子供が病気のとき家で付き添う」母親60%強・父親10%弱、「洋服を着せる」母親60%弱・父親数%などとなっている。どうやらフランスでは「子供がお母さんと一緒にいられる」のは常識のようだ。それをとやかく言う毎日こそ、子供にとっては迷惑な存在だ。
(増 記代司)





