米国の車への高関税検討に保守系紙も左派系紙もそろって批判の嵐

◆世界経済への影響大

 トランプ米政権の一方的な通商政策には、右も左も関係なく、より正確に言えば、保守系紙の方が困惑、批判の度が強いようである。

 今回はトランプ大統領が23日にロス商務長官に指示した、自動車・同部品の輸入が米国の安全保障に及ぼす影響についての調査である。米メディアによれば、「安保上の脅威」と判断すれば、輸入車に最大25%の高関税を課すという。

 これに対し、読売を除く各紙は、そろって、強い批判の社説を掲載した。列挙すると、25日付で日経「米国が検討する車の高関税は許されない」、産経「一方的措置は認められぬ」、毎日「また恫喝を繰り返すのか」、26日付で朝日「暴挙を繰り返すのか」、東京「問われる安倍経済外交」――という具合である。

 「国の安全保障を大義名分にすれば、どんな輸入制限も許されると、本気で考えているのだろうか。トランプ米政権の通商政策はあまりにも危険である」

 日経社説の冒頭である。資本主義経済を擁護、推進する経済紙として当然の論調と言える。

 各紙が指摘する通り、自動車関連の貿易規模は大きいだけに、3月に強行した鉄鋼やアルミニウムの追加関税よりも深刻な影響をもたらす恐れがある。日経は「主要国との貿易戦争を誘発し、世界経済を危機に追いやる無謀な行動と言わざるを得ない」と断じたが、まさに同感である。

◆同盟国ですら標的に

 保守系紙・産経も、先に挙げた見出しの通り、厳しい論調を示す。力が衰えてきたとはいえ、自由主義陣営の盟主である米国とは、外交・安全保障で連携の強化、深化を訴える同紙だけに、「貿易赤字削減のため、国際社会の批判は意に介さない。同盟国ですら標的にし、揺さぶりをかける取引外交には、目に余るものがある」と、批判が強くならざるを得ないのも肯(うなず)ける。

 同紙は、鉄鋼などの輸入制限ではすでに同盟国の日本まで対象に含めていると指摘し、自動車輸入をめぐり安全保障を持ち出すことに「改めて強い違和感をぬぐえない」としたが、困惑度の深さがうかがえる。

 左派系紙は、当然ながら、強い批判を展開した。

 毎日の冒頭は、「またも『米国第一』を振りかざして、身勝手な理屈を押し通すつもりなのだろうか」である。

 世界貿易機関(WTO)は、安保への脅威を理由にした輸入制限を認めているが、それはあくまでも例外扱いで、それも「有事などに限られるとの解釈が通例」(毎日)、「戦時のような緊急事態を想定してのこと」(朝日)である。米国自身も1982年にリビア産原油に発動して以降採用していない。「極めて異例の措置」(朝日)なのである。

 毎日が問題視するのは、先のWTOが定める国際ルールに違反する疑いがある点と、米国が恫喝(どうかつ)的な態度で譲歩を迫ってくる恐れがあるという懸念である。

 「超大国が理不尽な要求を突きつければ国際秩序は成立しない。報復を招き、貿易戦争に突入しかねない。米国経済にも悪影響を及ぼす」との指摘は、毎日ばかりでなく、各紙に共通している。

◆狙いは譲歩引き出し

 朝日は、高関税に反対する声は米国内にもあり、トランプ政権が本当に実施するかどうかは見通せないが、「少なくとも各国との通商協議を有利に進める狙いがあるのは間違いない」とした。産経が懸念する「取引外交」である。

 鉄鋼・アルミでは北米自由貿易協定(NAFTA)再交渉中のメキシコ、カナダを今月まで高関税の適用対象から外しており、両国から譲歩を引き出そうとしている。

 朝日は「自動車についても調査開始で両国に圧力をかけ、さらに譲歩を迫るのだろう」と指摘。日本に対しても同様の懸念があり、6月にも始まる米国と新たな経済協議で、「米国から二国間の自由貿易協定(FTA)交渉などを求められる可能性がある」(朝日)というわけである。

 各紙とも、日本をはじめとする主要国が連携して、トランプ氏の自制を強く促すよう求めている。東京の見出しはその点を取っているわけだが、安倍政権への皮肉か。この問題で読売、本紙に社説がないのは残念である。

(床井明男)