都合の悪い回答結果は切り捨て分析記事も載せない朝日の世論調査報道

◆客観を装い印象操作

 月刊「新潮45」6月号が「朝日の論調ばかりが正義じゃない」と題する特集を組んでいる。朝日とはむろん、朝日新聞のことだ。同誌の若杉良作編集長はこの特集を編集しながら、ギリシャの故事を思い出したという。ギリシャ神話に登場するアッティカの強盗プロクルステスと朝日が似ているからだ。

 プロクルステスは捕らえた旅人を自分のベッドに寝かせ、体がはみ出せばその部分を切り落とし、短かければ無理やり引き延ばす。同じように朝日は「自分たちが『こうあって欲しい』と考える社会を作るために、都合のいい事実だけを拾い集めて引き延ばし、ブレーキになりそうな話は切り捨てる。それだけではない。客観を装った印象操作まで施す」。若杉氏はそう述べている(新潮社『波』6月号)。

 特集の中で、ジャーナリストの高山正之氏が「とことん『家庭』を壊したい新聞社」と題し朝日の反家族主義を指弾しているように、朝日にとって家族は典型的な「切り捨てる」対象だ。直近では5月2日付の憲法を問う朝日の世論調査報道がそうだ。

 これこそ客観を装った印象操作だった。紙面には「改憲、反対58%」などと反対の文字が躍ったが、中身を吟味すると、まるで違っていた(8日付本欄「護憲派は3割にすぎぬことを図らずも浮き彫りにした朝日世論調査」参照)。この朝日報道で切り捨てられていたのが「家族」だ。

◆「個人の尊重」を強調

 約40問ある質問の中に、次のようなものがあった。

 「家族の結びつきを強めることは、国や社会の安定のために必要だと思いますか。それとも、個人の自由だと思いますか」

 これに対する回答は、
 「国や社会の安定のために必要だ65 ▽個人の自由だ32」(数字は%)
 という結果だった。個人よりも家族が圧倒的に支持されている。この意味するところは大きい。

 「市民意見広告」と名乗る左翼護憲団体が3日付の読売と毎日(地方紙では東京、秋田魁新報、琉球新報)に「変えないを選ぶ 9条をこわすな・私たちがいま『改憲』に反対する3つの理由」との全面広告を載せたが、その理由の一つが「民主主義の根幹は『個人の尊重』」というものだった。朝日もこれまで、家族と個人を対比させ、「個人の尊重」を強調する論調を張ってきた。だから、この質問を用意したはずだ。

 これに対して調査結果は3分の2(65%)が個人の自由よりも、国や社会の安定のため家族の結び付きを強める必要があると考えていることを示した。「朝日の論調ばかりが正義じゃない」という証拠だ。ところが、この調査結果に対する分析記事が紙面のどこにもなかった。ブレーキになりそうな話だから切り捨てたのだろう。

 朝日の世論調査報道では前例がある。2013年5月2日付だ。質問に「いまの日本は、憲法が掲げている個人の尊重がまだ足りないと思いますか。それとも、憲法のせいで利己主義が広がっていると思いますか」があり、回答結果は「個人の尊重がまだ足りない」34%、「利己主義が広がっている」45%だった。憲法のせいで利己主義が広がっていると考える国民が「個人の尊重」派より多かった。これも紙面で報じず、切り捨てられてしまった。

◆家族を忌み嫌う朝日

 ちなみに同調査には「自民党の改憲案は、自由と権利には責任と義務が伴うことを自覚するよう国民に求めています。憲法でこのような自覚を国民に求めることは望ましいと思いますか。望ましくないと思いますか」との質問もあった。結果は「望ましい」68%、「望ましくない」23%で、朝日の期待を裏切って自民党改憲案が圧倒的支持を得た。むろんこれも切り捨てられた。

 前掲の高山氏は「とことん『家庭』を壊したい新聞社」とするが、朝日は面と向かって「家庭を壊す」とは言わない。「個人の尊重」がその代名詞となっているのだ。「個人の尊重」には誰も逆らえないと思っているからだろう。

 なぜ朝日はかくも家族を忌み嫌うのか。そのことについては本紙26日付「論壇時評」を参照されたい。プロクルステスはアテナイの英雄テセウスによって退治された。さて、朝日は―。

(増 記代司)