米朝会談中止で「報プラ」指摘の北朝鮮6月後半経済危機に現実味か
◆半信半疑はもっとも
持ち上げたり、こき下ろしたり…米朝首脳会談が予定された6月12日を前にトランプ政権と北朝鮮当局者の応酬が続いたが、トランプ大統領は金正恩朝鮮労働党委員長に書簡で中止を通告した。南北首脳会談、米朝首脳会談の発表など一連のニュースに浮かれた空気が乱気流になっている。
10日にトランプ大統領がツイッターで米朝首脳会談を発表し、13日放送のNHK「日曜討論」では「6・12 シンガポールで米朝首脳会談の行方は―開催まで1カ月どうなる米朝関係」がテーマだった。
史上初の会談に各国から「歓迎」の熱が上がったばかりだ。時のムードで、「半信半疑」と懐疑論を呈する際、マサチューセッツ工科大学シニアフェロー・元外交官の岡本行夫氏は「悪意に考えれば」と断らなければならなかった。
「30年かかってプルトニウムを営々とつくってきて、韓国の80分の1のGDP(国内総生産)しかない国が、人民を飢えさせて莫大(ばくだい)な予算を使って核を開発してきて、しかも核兵器があるから北朝鮮はGDP1000倍の米国と五分にやってこられている。それがある日突然、国際協調に目覚めて全部放棄する?」
加えて岡本氏は、今回も核兵器開発の時間稼ぎという見方を示していた。「悪意」どころか、もっともな考えだ。
◆正恩氏の二面性指摘
任侠映画でも極道の人情味が支持される。平昌冬季五輪に始まる北朝鮮の平和攻勢が注目されたのは、核実験や脅しなど悪いイメージの反作用だ。同日放送のフジテレビ「報道プライムサンデー」は、「賛否両論 金正恩氏は“平和の使徒”か“恐怖の独裁者”か」を問うた。ただ、設問とはいえ「平和の使徒」とは評価が過ぎる。「普通の人間」で十分だろう。
同番組は金正恩氏が留学したスイス、母親の出身地の大阪で同氏を調査した韓国の元国家保安戦略研究所所長のナム・ソンウク氏から、「至って正常な人物であることが分かった。冷静沈着に対話ができ国際情勢を広い見地で見ることができる」との人物像を紹介。また、金氏を警護する憲兵だった脱北者の証言から、父・正日氏からの教育による猛勉強で頭脳明晰(めいせき)、母の高英姫氏から日本的な大らかで律儀な人物になるように教育され、父母からの異なる教育で剛柔の二面性を持つと指摘していた。
ところで20日放送の日本テレビ「真相報道バンキシャ!」は、中学生の頃、親戚と出漁中に北朝鮮に「救済」され、平壌で労働団体代表になった寺越武志さんを訪ねる87歳になる母親・友枝さんに同行していた。武志さんの自宅で親子がくつろぐ中、武志さんは生活し生きるためにこの国の人になろうと決めたのだと語っていた。つまり自分を捨てた。
これは体制頂点に立つ金正恩氏にも当てはまるだろう。人物は正常でも共産主義を思想基盤とした体制で権力を守るには、兄弟や親族を粛清するほどの狂気を伴う。共産主義が「恐怖の独裁者」を生んだ例は幾つもある。
◆守ったのは核と闇市
米韓空軍合同演習「マックスサンダー」や、完全で検証可能かつ不可逆的な核・ミサイル放棄を経済繁栄の代償として要求する米側、特にボルトン大統領補佐官の「リビア方式」に北朝鮮は反発。16日、朝鮮中央通信が南北閣僚級会談を中止し、米朝会談取りやめを示唆した。
これを20日報道の「報道プライムサンデー」は、北朝鮮の「手のひら返し外交」として背景を探っていた。ナム・ソンウク氏は、北朝鮮経済の大半を「チャンマダン」という闇市が支えており、ほとんどが中国からの密輸品と説明。中国・大連での習近平主席と金氏の会談によって中国の制裁が緩むからと見ていた。
また、峨山政策研究院客員研究員のチャ・ドゥヒョン氏は、制裁が効いて北朝鮮の貿易量が減っており、「6月後半になれば経済危機が来るはずだった。だから(6月12日の米朝会談が)早過ぎた」と述べ、北朝鮮が余力ありと見せて自分たちのペースで交渉を持っていこうとしていると分析した。
その通りならば、米朝会談中止となると経済危機の現実味が増すことになる。トランプ大統領は「最大限の制裁」に動き始めた。北朝鮮は米国に泣きつくだろうか。金正恩氏が前例のない外交を展開して守ったのは核と中国からの密輸と闇市ということになる。
(窪田伸雄)