ビジネスマンのために日本史を再検証する東洋経済「目からウロコ…」特集
◆花盛りの「歴史もの」
よく「賢者は歴史に学び、愚者は経験に学ぶ」と言われる。プロイセンの名宰相オットー・ビスマルクの言葉とされているが、その真意は「愚者だけが自分の経験から学ぶと信じている。私はむしろ、最初から自分の失敗を避けるために他人の経験から学ぶのを好む」と言うことらしい。いずれにしても失敗を避けるためによく、自己の経験に執着することなく歴史的事実を含め、他に耳を傾けることが肝要だと言うのであろう。
その一方で、「歴史は勝者がつくる」とも言われる。人類史は洋の東西を問わず「戦争の歴史」といっていいほど戦いに明け暮れる。「勝てば官軍」の言葉よろしく、自己の権威と正当性を高めるべく勝者はその記録を残していく。従って、その歴史が事実かどうかは、後代の人々が検証していかなければならない作業なのである。
ところで昨今、日本史ブームが続いているという。テレビや出版界は「歴史もの」が花盛り。しかも、近年は歴史上のメジャーな人物に限らず、あまり日の当たらないマイナーな人物や地域の歴史にも人気が集まる。
そうした風潮に合わせたのかどうかは定かではないが、週刊東洋経済(4月28日・5月5日合併号)は日本史に焦点を当てて特集を組んだ。見出しには「目からウロコの日本史再入門」との表題が付く。
ところで、これまで経済誌が歴史をテーマに特集を組む場合は、当然のことながら経済学史や経済思想史といった経済に絡んだものが多かった。少なくとも純粋に歴史を取り上げる場合でも、それは世界史のテーマが多く日本史は極めて少ない。東洋経済で見れば2年前の2016年6月18日号の「ビジネスマンのための学び直し日本史」くらいである。
◆教科書の変更例紹介
今回の特集で同誌は、2年前を踏まえて、「かつて日本史を学んだビジネスパースンに向け、それぞれの分野で有力な研究者に登場いただいている」と前置きし、歴史を学ぶ面白さについては「それまでの見方が覆され、歴史の新たな見方・視点を獲得できることにもある。…。(今回の特集では)歴史の楽しさを存分に味わうことができるはずである」と記してゴールデンウイーク期間のビジネスマンのための読みものという作りになっている。
従って特集では、従来の歴史観からの変化や歴史の見詰め方について紹介。例えば近年の中学・高校の歴史教科書の変更を挙げる。一つに鎌倉幕府の成立は、これまで1192年とされてきた。「イイクニつくろう鎌倉幕府」などとゴロ合わせで覚えたものである。ところが近年では一時、源頼朝が1185年に守護・地頭の設置を認められたことをもって成立年としたものの、同幕府は段階的に成立したと考えられ特定されていないのが実情である。
もう一つ挙げると、江戸時代は鎖国政策によって海外との交易とりわけヨーロッパとはオランダのみとされ、外国の情報は閉ざされていたと思われがちだが、日本は意外に他国との交易を進め、幾つかの交易窓口を有していた。すなわち、薩摩は琉球、対馬は朝鮮、長崎はオランダ・中国、松前は蝦夷を通して海外との交易を広げ、海外の動静を見ていたのである。
話は余談になるが、隣の国韓国(当時、李氏朝鮮)もまた鎖国状態にあったが、儒教を核とした中華文明の継承者は朝鮮だけという自尊心から欧州との交流を遮断したのみならず、西洋の学問や技術の導入を一切拒否した。日本はキリスト教を禁教としたものの、西洋の技術導入には寛容であったのとは極めて対照的であった。朝鮮のかたくなな鎖国政策がその後の近代化を遅らせる原因となっていくのである。
◆歴史の見方への助言
今回の特集では「有力な(歴史)研究者にご登場していただいている」とあるように、歴史の見方への良きアドバイスをみることができる。「どんな時代でも『生きている歴史を考える』ということです。…。すべての歴史は現代史だといっても過言ではないわけです」(本郷和人・東大史料編纂所教授)、「足利義満の勘合貿易も…。織田信長の時代も…、世界から日本への関心が集まった。このように世界はつながっているわけで、だからこそ世界史なしの日本史はありえないのです」(出口治朗・立命館アジア太平洋大学学長)。
まさに激動の時代と言われ、混迷の時代と呼ばれる昨今、こういう時こそ過去の歴史をひもとくことは極めて有意義なことである。
(湯朝 肇)