次官セクハラで野党議員のミー・トゥーに苦言出た「報道プライム」

◆釈然としないテレ朝

 福田淳一財務省事務次官が18日、週刊新潮(12日発売)で報道されたセクハラ疑惑を否定しつつ辞任を表明すると、日付をまたぐ19日午前零時にテレビ朝日が記者会見を開き、女性記者に福田氏からセクハラがあったと発表した。省庁と記者クラブの癒着に落とし穴があったのだ。

 それまで、同誌上の匿名被害者には臆測が飛んだ。森友問題で揺らぐ財務省、野党に手を焼く政府与党などの状況があり、しかも記者となればスキャンダルを追うのは仕事のうちだからだ。

 音声データが出回ると、17日朝放送のTBS「ビビッド」は日本音響研究所で「徹底分析」している。「異なるシチュエーションでとられた録音をつなぎ合わせている可能性がある」(同所長・鈴木創氏)と3カ所の合成した部分を指摘し、楽曲が流れ、ホステス、バーデンダーのいる場所を推定した。

 18日朝のフジテレビ「とくダネ!」でも、デーブ・スペクター氏が「仕事に弊害が出るから出て来れないと言っているのは非常に邪道」で、「スクープなら自分が所属している媒体が出す」と訴えた。テレ朝は同業者の視線が迫るのを感じていただろう。

 無論、綱紀粛正に一番の問題がある。財務省はセクハラを認定し福田氏を減給処分にしたが、事態を予防できなかった。が、音声データの合成が指摘され、新潮に「言い寄って成功した例は知られていない」と書かれる福田氏にセクハラの自覚がなく、テレ朝の「二次被害」を理由に記者を明らかにしない理論と組織のガードを固めた「セクハラ」発表では、理屈は後からつくし釈然としないものが残る。

◆政争の具と化す弊害

 この一件に、昨年10月に米国から燃え広がった、ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)に被害女性が名乗り出てのセクハラ告発運動「ミー・トゥー(#Metoo)」と重ねる動きがある。ところが、「#Metoo」のプラカードを掲げて出てきたのは、社民党の福島瑞穂参院議員や立憲民主党の辻元清美衆院議員たち。20日に財務省に押し掛け、麻生太郎財務相の辞任を迫った。

 22日放送のフジテレビ「報道プライムサンデー」で、パックンことパトリック・ハーラン氏は、「ミー・トゥーの根幹、女性が手を上げて私は被害を受けていました、どうすればいいんだ。どうしてくれるんだ。こういう訴えで社会を変えていく。ここでちょっと問題視されているのは、与野党、各党の対応なんですね」と違和感を唱えた。

 ジャーナリストの有本香氏は、「これは野党の議員が、特に女性議員を中心に黒い服を着て、これは米国でやったパフォーンマンスの真似ですけど、私はこういう問題を自分たちの政局、パフォーマンスに使うのはむしろ言語道断だと思いますね」とコメントした。同感である。

 政争の具のミー・トゥーでは、セクハラより大臣や首相をクビにすることや選挙が目的になる。匿名報道が政治要因から注目度が高くなった今回のセクハラ騒動と、昨年の米タイム誌が、「今年最も世界に影響を与えた人」として表紙に選んだ、沈黙を破った女性たちが起こしたミー・トゥー運動には落差があると感じざるを得ない。

◆サンモニでの生証言

 22日放送のTBS「サンデーモーニング」も、「風をよむ」のコーナーに福田氏辞任から「“Me Too(私も)”」とタイトルを付けて、日本は性意識が低いと問題視した。が、むしろ意味深いのはサブキャスター・橋谷能理子氏のコメントだ。

 「私もミー・トゥーなんで。若い頃、結構、飲み会に行くとチークダンスを強要されたり、あるいは後輩のキャスターは車の中で体を触られたり、バッグ買ってあげるから愛人にならないかとか、いっぱいあったんですよ」

 司会の関口宏氏が「そういうこといっぱいあるんだね」と相槌を打つと、「いっぱいあるんですよ。それで日本というのは、英雄色を好むと言いますけど、男の人の女性にだらしないところはすごく寛容なんだけど、女性にはそこを上手くかわしてこそ大人の女性なんだと、そう言われて耐えてきた」と、顔は笑顔で苦情を述べた。

 図らずもの生証言だが、セクハラ啓蒙のためテレビ局周辺に「いっぱいある」不品行をやめるようテレビはもっと伝えたらどうか。

(窪田伸雄)