佐川氏証言の「拒否回数」ばかり数え「詳報」はずさんだった朝毎読日

◆産経の阿比留氏指摘

 55回(毎日)、50回(日経、読売)、40回超(朝日)。何の数字かというと先週、国会で学校法人「森友学園」の国有地売却に関する財務省の決裁文書改竄(かいざん)をめぐる証人喚問があった。その際の佐川宣寿前国税庁長官の証言拒否の回数だ。各紙で数え方が異なるのか随分、数字が違っていた(28日付)。

 喚問では新聞の見出しを飾るような話は出なかった。目立ったのは「刑事訴追の恐れがあり、答弁を控えます」の発言で、当初から予想された。各紙は拒否を数える記者を置いていたのか、それとも見出しどころがないので大急ぎで数えたのか。証言の拒否回数は細かく調べている。

 ところが、その割には証言の詳報はずさんだった。産経の阿比留瑠比・論説委員兼政治部編集委員は「佐川氏が理財局長当時に『交渉記録は廃棄した』などと、改竄前文書とは食い違う『丁寧さを欠いた』(佐川氏)答弁をしていた背景は浮かび上がった」と指摘している(30日付『極言御免』)。だが、他紙にはその答弁がほとんど載ってない。

 阿比留氏によると、佐川氏は事実と異なる答弁をした理由について「お叱りを受けると思うが」「言い訳になるが」と断りつつも、こう説明した。

 「当時、局内は私も含めて連日連夜、朝までという日々で、本当に休むこともできないような、月曜日から金曜日まで毎日ご質問を受ける中で、そうした(確認の)余裕はなかった。全く余裕がなかったのが実態で、相当、局内も騒然としていた」(自民党の丸川珠代参院議員への答弁)

 この部分を各紙28日付で探すと、産経にはあるが、朝日と日経の「主なやりとり」には書かれていない。毎日と読売の「詳報」には「相当、局内が騒然としていて、丁寧な対応ができなかった」などと端折(はしょ)っている。

◆「詳報」でなく「抜粋」

 阿比留氏が取り上げた次の答弁もそうだ。

 「レクチャーを受ける時間もほとんどなく、原課で作った答弁資料を入れてもらい、順次読み込んでいるという状況だった」(日本維新の会の浅田均参院議員への答弁)

 朝日と読売には浅田氏の質問自体が載ってない。日経と毎日には質問はあるが、このやりとりは省かれている。さらに次の答弁も同様だ。

 「昨年、例えば予算委員会7時間コースだと、ほとんど全員の質問者が森友の質問をされるケースもあった。本当に何十問なのか、100問を超えるのか分からないが、(答弁準備が)事実上間に合わないケースもあった。それぞれ協議をしているという余裕もなかった」(民進党の小川敏夫参院議員への答弁)

 この部分は毎日にはあるが、朝読日にはない。阿比留氏はこの他に立憲民主党の逢坂誠二衆院議員の質問と佐川氏の答弁を取り上げている。4紙いずれにもその部分はない。これでは「詳報」でなく「抜粋」と言うべきだ。

 これらのやりとりは「主な」に入らない、どうでもよいことなのか。それとも恣意(しい)的に消したのか。朝日は昨夏、学校法人「加計学園」の獣医学部新設をめぐる衆参両院の閉会中審査で、加戸守行・前愛媛県知事の発言をほとんど取り上げず、「偏向報道」と批判された。今回はどうなのか、疑念が湧く。

◆他にも重要課題多数

 阿比留氏は、野党議員らによる質問攻めや資料請求などへの対応に忙殺されたため理財局内に混乱が生じ、丁寧さを欠く答弁になったのではないかと推測し、こう述べる。

 「もし本当に、真相解明を求める野党の追及も手伝ってのこんな過酷な状況が佐川氏の誤答弁を生み、文書改竄という最悪の結果を導いていたとしたら…。国会は、全く笑えぬ喜劇を上演中ということになる」

 果たして真相はどうだろうか。それにしても野党も左派紙もよほど暇なのだろう。麻生太郎財務大臣は「森友の方がTPP(環太平洋連携協定)より重大だと考えているのが、日本の新聞のレベルだ」と発言し批判にさらされたが、麻生氏の気持ちは分かる。

 TPPだけでなく、北東アジアは激変の兆しを見せ、欧州ではロシアの「元スパイ暗殺未遂」をめぐって外交官追放合戦が展開されている。森友だけに明け暮れる新聞にはうんざりだ。巷間(こうかん)にそんな声が聞かれるのは無理もない。

(増 記代司)