「18歳成人」めぐり国防に関わる論議が皆無に等しい「不思議の国」日本
◆欧州で徴兵制復活も
欧州で徴兵制を復活する動きが出ているそうだ。
産経によれば、スウェーデンは1月からロシアの脅威を念頭に8年ぶりに復活させ、フランスではイスラム過激派テロの脅威を背景にマクロン大統領が「復活」を宣言、ドイツでも復活をめぐる論議が起こっている(2月2日付)。
これら徴兵制の対象年齢はいずれも18歳だ。スウェーデン(人口約1000万人)では出生数は毎年11万人で、1999年以降に生まれた18歳の男女約10万人からまず1万3000人を選び、適正検査を経て毎年4000人を約11カ月間、兵役に就かせる。女性の徴兵は初めてで、徴兵を拒絶すると罰則を科す。
ドイツでは憲法に当たる基本法に「(男子は)満18歳から軍隊、連邦国境警備隊または民間防衛団における役務を義務として課すことができる」と明記し、女子には非軍事的役務への徴用を行う(12a条)。2011年に徴兵・徴用が停止されているが、安保環境の変化いかんによっては、いつでも復活できる。
これが成人の「義務」の最たるものだろう。安倍内閣は3月に成人年齢を18歳に引き下げる民法改正案を閣議決定した。むろん徴兵制を復活しようという話ではない。憲法改正の手続きを定めた国民投票法が18歳投票を促し、公職選挙法が改正されたからだ。それに合わせるための、言ってみれば権利のための18歳成人だ。
◆引き下げ望まぬ若者
旧・民主党が18歳成人の急先(せんぽう)鋒で、改憲環境を整備したい自民党と保守メディアがそれに乗り、「18歳成人は世界の大勢だ」(読売09年7月30日付社説)との論調を張った。新聞は右も左も18歳成人に賛成し、なぜ18歳成人が世界の大勢なのか、その背景について一言も語らなかった。それが徴兵制にほかならない。
欧州は元来、21歳成人だった。それは「重い武具を着けられる」年齢だったからだ。米国も21歳だったが、1970年代にベトナム戦争の徴兵制と関連し「18歳で徴兵されるのなら、選挙権もないとおかしい」との論議が起こり、9割以上の州が18歳に下げた。欧州でも70年代に学生運動が高まり「若者からの要望」で下げられた。アフリカなど新興国の18歳成人は大半が徴兵年齢に由来する。
ところが、わが国では国防に関わる成人年齢論議は皆無に等しい。若者から成人年齢を引き下げる要望が出ていたわけでもない。世論調査を見ると、若者はむしろ20歳成人でよしとしていた。読売の2016年の世論調査では、「反対」が6割を超えていた。
それだけに各紙社説を見ると、「青年の自覚育む契機にしたい」(読売14日付)、「18歳の自立を後押ししよう」(日経、同)、「社会的責任を自覚する教育を」(本紙15日付)「社会全体で共有してこそ」(毎日16日付)と、いずれも支援策を促している。
そんな中で唯一、徴兵制に言及したのが東京14日付の「責任背負う重さも」と題する社説だった。「二十歳成人のルールは、一八七六(明治九)年の太政官布告までさかのぼる。近代の国民国家で成人が持つ意味の一つに徴兵がある。成人になれば、兵役の義務が多くの国にあった。日本でも同じだった」として、こう言った。
「『赤紙』と呼ばれた召集令状が来たのは二十歳の成人から。十八歳成人に若者の社会参加という明るいイメージを持つか、それとも―。成人のルール変更は、国民の意識や文化まで影響するテーマだ。拙速だけは慎みたい」
◆崇高な国民の義務
拙速とは徴兵制を指すのだろうか。東京は「兵役の義務が多くの国にあった」と過去形で書くが、前記に見たように現在進行形のものだ。それも今なお世界では崇高な国民の義務とされている。スイスでは13年に徴兵制廃止の是非を問う国民投票が実施されたが、廃止反対が7割を超えた(読売1月14日付「民間防衛の現状 スイス」下)。
わが国のように徴兵を憲法で禁止されている「苦役」(18条)と解釈するような国は地球上のどこにも存在しない。ところが、改憲論議では国防義務について話題にも上らない。新聞もそれを是とする。いみじくも18歳成人は日本が「不思議の国」であることを浮き彫りにしたようだ。
(増 記代司)