米国の貿易制裁措置にそろって「一方的」「独善」と強い批判の各紙
◆最も厳しかった日経
朝日「貿易戦争回避に全力を」、毎日「混乱広げる独善的強硬策」、東京「報復合戦でなく交渉を」とリベラル系3紙が訴えれば、保守系3紙も同様に、読売「勝者なき貿易戦争を避けよ」、産経「国際秩序を損なう独善だ」、日経「米国は一方的措置で通商秩序を乱すな」と対米批判の声を上げた――。
米国のトランプ政権が22、23日と発動決定や発動を実施した貿易制裁措置に対して、各紙が24日付で掲載した社説の見出しで、保守系紙の方が全般的に厳しい論調になった。
最も厳しかったのが、経済紙日経である。冒頭から、「国際的な通商ルールを無視した一方的な措置」「貿易戦争を招きかねない危険な動き」と厳しく批判し、日本をはじめ自由貿易を重視する国々は、米国に軌道修正を強く迫るべきだと訴えた。経済紙の矜持(きょうじ)からの叫びという印象である。
日経は、鉄鋼とアルミニウムの輸入制限は安全保障のためというのが表向きの理由だが、「自国の業界保護が狙いであるのは明らかだ」とし、また、日本や中国には追加関税を掛けるが、欧州連合(EU)や韓国などには当面発動を猶予するという、国によって対応が異なる根拠を明確にしていない、と指摘する。
同紙はまた、今回の対応から透けて見えるのは、強硬姿勢を取ることで、相手国から何らかの譲歩を引き出そうとする「取引至上主義」の考え方だとして、「そうした姿勢は米国に対する信頼を傷つけると同時に、ルールに基づく自由貿易秩序をかき乱すものといわざるをえない」と強調する。正論である。
◆産経は貿易戦争懸念
日経に劣らず厳しかったのは産経で、同紙も「大国が貿易相手国を恫喝(どうかつ)する手法は、自由貿易の秩序を崩すもので、貿易戦争を誘発しかねない。堅調な世界経済を暗転させる恐れもある行動は容認できない」とした。
ただ、知的財産権侵害を理由とする対中制裁措置とともに、鉄鋼などの輸入制限も主たる狙いとされるのは中国で、産経などは「米国が根強い不満を持つ理由はある」と一定の理解を示す。
2001年に世界貿易機関(WTO)に加盟した中国は、「その恩恵を享受し、巨額の対米黒字を出してきた。にもかからず、国内産業を保護する自国の不公正な貿易慣行を一向に改めようとしない」。知財侵害では、「外資企業に対し技術移転を強要するなど、さまざまな手立てで海外の先端技術を不当に入手している」(産経)からである。
WTOだけでは埒(らち)が明かないとして制裁で圧力をかける。だが、産経は「日米欧で対中包囲網を強め、打開するのが筋である。独善が認められる理由とはならない」というわけである。
米国の制裁措置に対し、中国は米国製品や米国産品に報復関税を掛けることを発表し、追加の措置も検討している。大国間の衝突の懸念が高まり、ゆくゆくは貿易縮小につながる恐れがある。そうなれば、産経などの指摘の通り、「ほかならぬ米国経済に打撃を与える」ということを米国は自覚すべきであろう。
◆朝読は中国にも注文
これら保守系紙に比べ、朝日は冒頭でも「世界経済を引っ張る米国と中国が貿易戦争の様相になれば、悪影響ははかり知れない。またもや身勝手な振る舞いに出た米国に対し、日本をはじめ各国は再考を求めるべきだ」と対米批判のトーンは、やや抑え気味。むしろ、「自らの目先の損得にとらわれず、連携して米国と向き合う。一方的な措置の撤回を求め、国際協議を通じて問題を解決する。その基本を忘れないでほしい」と米国と関係する国々への要望が主になっている。
特に中国に対しては、「米国に次ぐ経済大国であることを自覚し、知的財産の保護をはじめ公正な貿易と投資に努めるべきだ」と、読売と同様な注文を付けた。
東京は「当面の経済への影響以上に心配なのは戦後の自由貿易体制、国際協調のへの打撃だ」するものの、直接的な対米批判は一切なし。
それより、トランプ大統領は原理原則よりも「取引」重視の交渉を得意とするとして、「一連の強硬策が二国間交渉を有利に運ぶためのカードであれば、交渉と妥協で報復の応酬を回避する道もある」とした。鉄鋼などの輸入制限で、EUや韓国などが当面の高関税の対象から外れたように、「関係国は冷静に妥協点、着地点を探る努力を惜しんではならない」と日経とは対照的な姿勢を見せた。
(床井明男)