2年後の東京五輪での北朝鮮によるサイバー攻撃に警鐘を鳴らす文春

◆猛攻に晒された韓国

 平昌冬季五輪が終わった。厳寒、強風、入場チケットや宿泊、交通手段の確保困難など課題は幾つもあったが、何より北朝鮮の参加で政治ショーと化し、文在寅韓国政権がいかに北朝鮮との対話を求めて“丸裸”になろうとしているかがよく分かった。

 丸裸と言えば、サイバー世界では韓国は猛攻に晒(さら)されていたようだ。開会式直前にシステム障害が起こり、プレスセンターのインターネットがダウンしたり、観客のチケットが印刷できなくなるなどサイバー攻撃が頻繁に行われていたという。どこからか。北朝鮮からだ。

 2年後の東京五輪ではさらに手の込んだサイバー攻撃が行われると予想されている。週刊文春(3月1日号)に「国際ジャーナリスト山田敏弘」氏が「『北朝鮮サイバー部隊』が東京五輪を狙っている!」の記事を書いている。

 サイバー攻撃の対象は社会インフラに限った話ではない。最近日本でも仮想通貨交換業者が「580億円相当」を盗まれたことがあった。個人や金融機関、政府機関まで、「マルウェア」(悪性ウイルス)を仕込まれて、データを破壊されたり、盗まれたり、意図しない作業を勝手に行ったりされてしまう。役所や金融機関に入り込まれたら被害は甚大になる。

 そう見てくると、サイバー攻撃は通常兵器はもとより核ミサイルにも匹敵する効果を得ることができる。北朝鮮は通常兵器での軍拡競争からはとうの昔にさっさと降りて、力を核兵器に集中し、抑止力とする傍ら、他国にそれを売って外貨稼ぎの手段とし、それと並行してサイバー攻撃力を育ててきたわけだ。

◆6千人規模の大組織

 山田氏はある脱北者の証言として、「金正恩はサイバー攻撃にかなり力を入れています」という話を紹介してそれを裏付けた。

 「サイバー工作は、人民軍偵察総局の『一二一局』が担う。一二一局には高い能力をもつハッカーが千八百人ほどいて、サポートチームと合わせて全体で六千人規模の組織」だという。彼らの“戦果”として紹介されているのが、「『〇九年七月七日に行われた韓国に対するサイバー攻撃』で、青瓦台、国防部、行政自治部、韓国国会、国家情報院などは、軒並みサーバーをダウンさせられた」ことだ。

 「この成果を高く評価した金正恩は、自らがトップになった際、サイバー部門の拡充を指示。現在では軍事予算の一〇~二〇%がサイバー部門に割かれている」と山田氏は紹介する。

 別の脱北者「咸興コンピュータ技術大学で、サイバー兵士を育てていたという金興光氏」は、「北朝鮮はサイバー攻撃で年間十億ドルほどを稼いでいます。これは北朝鮮が輸出で一年間に儲ける額の三分の一に相当します」と明かす。これらは国連安保理制裁をかいくぐって行われているものだから侮れない。

◆10年前から日本標的

 北朝鮮のサイバー攻撃の主な対象は「韓国とアメリカ、そして日本の三国」だ。「日本は十年前からターゲットです」として、特に東京五輪に焦点を合わせて攻撃してくるという。山田氏は、「その狙いは、日本に国際的イベントを行う能力がないことを示し、日本の信用を失墜させ、経済的打撃を与えることにある」と分析し、さらに「東京五輪は、こうした政府系ハッカーのみならず、愉快犯のハッカーたちをも引きつける」と指摘する。

 それほど狙われていて大丈夫なのか。「日本政府も手を拱(こまぬ)いているわけではないが――」と山田氏は歯切れが悪い。「サイバー防衛隊という自衛隊と防衛省を守るための部隊が存在するが、その兵力は現在百十人ほど。今後、千人に増やす予定でいる」という。待てよ。「自衛隊と防衛省を守るため」の部隊だと? 政府や民間は対象外なのか。

 まして、東京五輪はどうやって守るのか。日本オリンピック委員会(JOC)、東京都、国、民間警備会社、サイバーセキュリティー会社等々の連携が重要だと思うが、そこには手が付けられていないのか。ましてサイバー世界はつながっている。どこの個人や企業のネットワークから侵入されるか分からない。よくよく読めば、空恐ろしい現状が見えてくる。繰り返し取り上げて警鐘を鳴らすべきだ。

(岩崎 哲)