スクープ連発の「アクシオス」はネットニュースの先駆けとなるか
◆1年余で世界が注目
昨年から「アクシオス」という名前をメディアで見掛けることが多くなった。米国の新興のニュースサイトで、昨年1月、トランプ政権発足の直前にスタートした。トランプ政権をめぐるスクープを連発し、わずか1年そこそこで世界が注目するメディアとなった。
23日には、イスラエル政府筋からの情報として、在イスラエル米大使館の5月14日エルサレム移転を報じた。同日中に国務省が移転を正式に発表、追認した。
記事を書いたのは、アクシオスでこれまでにもスクープをものにしているイスラエル人記者、バラク・ラビド氏。イスラエルの民放「チャンネル10」の記者であり、同国の左派系大手紙ハーレツにも執筆しているが、アクシオスに関しては無報酬での記事提供のようだ。
アクシオスにはこのようなボランティア記者が数多く在籍しているという。創業者で最高経営責任者(CEO)のジム・バンデハイ氏も、米IT系ニュースサイト「デジデイ」との1月のインタビューで「全ての国に人材を派遣できるわけではない」と国際報道での記者確保の難しさを認めている。
◆特徴は記事の簡潔さ
興味深いのは記事の簡潔さだ。大使館移転の記事で見ると、主要部分は最初の1段落だけ。「米大使館が5月14日にエルサレムに移転する。イスラエル当局者が記者に明らかにした。1948年のこの日、イスラエルが独立を宣言し、ハリー・トルーマン大統領がイスラエルを承認した。…」。以下、「結論」「詳細」「背景」「耳にしていること」という項目が続く。注目度の高いアクシオスで、この程度の記事ならば、宣伝効果を考えれば無報酬もあり得るのだろう。このような記者は現在200人に上るという。
トランプ政権のパリ協定離脱、日中首脳会談などをいち早く報じたのもアクシオスだ。
バンデハイ氏はワシントン・ポスト紙出身で、政治専門サイト「ポリティコ」を2006年に立ち上げた。アクシオス共同創設者のマイク・アレン氏もポリティコに参加、「ポリティコに80万ドルの利益をもたらし、…ワシントンで最も有力なジャーナリストの一人」(ニュースサイト「ポレティカル」)だ。
16年にポリティコを辞めたバンデハイ氏は6月「デジタルメディアの『くずトラップ』」という記事を配信し、既存のメディアをこき下ろした。
同氏は「デジタルメディアは『くずトラップ』にとらわれている。大量生産のごみのようなクリックベイト(サイトの閲覧者にクリックさせる仕掛け)だ」と広告収入を当て込んだ、人目を引きやすい見出しやコンテンツにあふれるネットメディアを非難した。
また、「数年で変革が起き、今読んでいるもの、見ているものは覆されるだろう」と主張、報道の質が重要視されるようになり、とりわけ動画コンテンツへの需要が急速に高まると指摘している。
◆年内の有料化目指す
同氏は、紙媒体はいずれなくなると予測する。「ウェブが新聞を破壊したように、モバイルがデスクトップを破壊し、オンデマンド動画がテレビを破壊する」と主張、残るのは「誇り得るコンテンツ」と「それを喜んで買う」読者だと訴えている。
アクシオスの立ち上げ時にバンデハイ氏は、半年後に年間購読料を1万ドルとし、収益を購読料と広告料半々とすることを公言していた。それなりの内容、スクープがあれば、購読する読者はいるという読みだが、当時からあまりの高額に、否定的な見方も多かった。
ポリティコを成功させ、今のところアクシオスも順風満帆。だがそれも、大手企業からの投資があってのことだ。資金調達の総額は昨年11月段階で「3000万ドル」(ニュースサイト「バラエティ」)という。
共同創設者のロイ・シュワルツ氏は昨年9月、「当面は、ブランドの確立に専念する」と有料化の延期を発表。バンデハイ氏は今年1月に「この勢いで進め、年内には実施する」とぶち上げた。
紙メディアが低迷し、ネットでは既存の広告モデルが行き詰まる中で出てきた、新たなビジネスモデルだが、先駆者となるか、奇抜だけで終わるのか、見極めるにはまだ時間がかかる。
(本田隆文)