産経ならでは、小紙ならでは、二つの連載・「拉致」と「ワクチン接種」

◆「拉致」は最優先課題

 二つの連載を取り上げたい。一つは16日付から掲載された産経の「再び、拉致を追う/第10部 明日への提言」の上、中の2回(18日現在)についてである。

 北朝鮮はいつ何が起こるか分からない、何が起こってもおかしくない、いつも問題を起こして驚かせる、常識外の国である。この12日には金正恩第1書記の後見人でナンバー2とみられていた張成沢前国防委副委員長が「国家転覆陰謀罪」で処刑され、世界を驚かせたばかり。今年1年も「寧辺の核施設再稼働」の表明(4月)など核をめぐって揺さぶり、韓国との開城工業団地を一時閉鎖(5月)し9月に操業再開したりなどでも振り回してきた。

 そんな動向だけに振り回されて埋没させてはならないのが、北朝鮮による日本人拉致事件の解決(拉致被害者の救出)である。この解決は、日本及び日本人にとって今や国政の最優先課題と言っていい。真実の追求による社会正義の実現を使命とするメディアには、この問題の解決のために最大限の努力が求められる。

 この拉致事件を北朝鮮による日本人拉致疑惑として初めて報じたのが、昭和55年(1980年)の産経新聞「アベック3組ナゾの蒸発」の記事である。

 アベック拉致事件は産経記事が出る2年前、昭和53年に連続したもの。その前年の昭和52年9月に、東京・三鷹市役所の警備員だった久米裕さん(当時52)が石川・宇出津海岸から北朝鮮の工作員にだまされて連れ去られた「宇出津事件」がある。

 この宇出津事件から約1年間の間に、アベック拉致や横田めぐみさんら、後に政府が拉致と認定する被害者13人の事件が起きているのだが、当時は警察ですら北朝鮮による拉致事件とは気付いていなかった。

◆報道リードした産経

 産経の連載「再び、拉致を追う」(16日付<上>)は、宇出津事件で警察が、北の工作員に協力した在日朝鮮人の男を外国人登録法違反容疑で逮捕し、男の自供から久米さん連れ出しをつかんでいたと綴る。大事件の尻尾を握っていたのだが、「警察にもマスコミにも、北朝鮮が国を挙げて系統的に拉致をしていると断定できた人はいなかった。大変な事件だという問題認識はなかった」(当時を知る捜査担当者の告白)ことが悲劇を広げたのかもしれない。

 第一線の捜査員よりも情報を集約する警察幹部にこそ、そうした判断や洞察が求められるわけである。だから、元警察庁長官の漆間巌(うるま・いわお)氏も産経連載に「あのとき一網打尽にできていたら、日本人拉致事件のその後の展開は変わっていたかもしれない」と、36年前の宇出津事件で踏み込めなかったことが今も悔恨事だとコメントを寄せている。

 連載は、北朝鮮による日本人拉致事件の捜査現場、他国の敵対的工作活動などを取り締まる体制(法律)のない日本の欠陥、治安捜査に立ちはだかる壁、世論や政治情勢とその裏事情など、なぜ拉致の悲劇を防げなかったのかを具体的な事例を追う中で突っ込んだ考察でまとめている。端緒となったスクープから常に拉致事件報道をリードしてきた産経ならではの示唆に富む展開が興味深い。

◆予防という人体実験

 もう一つは山本彰編集委員による小紙連載「予防という名の人体実験」(今月2日~)。女子生徒に重篤な副反応被害が相次いで問題化した子宮頸(けい)がんワクチン接種は今年6月に、厚労省のワクチン検討部会が定期接種の勧奨を一時中止とする決定をした。部会は今月、再度の会合を開いて今後の方針を検討する中で、勧奨の一時中止が見直される可能性が取り沙汰されている。

 連載は、ワクチン接種の勧奨再開に向け医療シンポジウムなどで情報発信を強める医師グループの活動、いくつかの地方自治体議会での論議、被害者やその家族の発言、治療費などの救済の手が届いていない被害者の実情などを丹念に取材。紹介している海外の論文が副作用の原因に迫りながら、一方でワクチン接種を擁護する結論を出していることの矛盾とその裏にある事情を解明し、ワクチンの積極的勧奨の是非をめぐって「多くの女子生徒の将来を犠牲にしてまで、なぜ国を挙げてワクチン接種を進められるのか」その構造に迫っている。

 こちらも世界日報ならではの連載展開となっており、手前味噌ながらご一読を勧めたい。

(堀本和博)