婚外子遺産相続で法律婚の重要性を俎上に載せ論調を修正した読売

◆審議での懸念を紹介

 先の臨時国会で、婚外子の遺産相続分を嫡出子と同等にする民法改正案が成立した。9月の最高裁判決を受けての措置だが、判決はわが国の家族制度の基礎となっている法律婚への配慮を著しく怠っていた。そうした視点から最高裁判決に異議を唱えたのは本紙1紙だけで、国会審議に当たっても他紙は沈黙し、本紙が「拙速な民法改正は混乱招く」(11月19日付)とクギを刺すのみだった。

 読売と産経つまり保守系紙は従来、家族を重んじる報道姿勢をとってきた。例えば、読売は憲法改正2004年試案で家族条項を盛り込み、産経は今年4月の「国民の憲法」要綱で「家族は、互いに扶助し、健全な家庭を築くよう努めなければならない」との家族保護条文案を示した。

 それにもかかわらず婚外子に限って読売は「日本人の家族観の変化を踏まえた歴史的な違憲判断」(9月5日付社説)と手放しで支持し、産経は「『法律婚』の否定ではない」(同)と判決を庇(かば)い、民法の早期改正を促した。家族観に対して一貫性のない矛盾した態度だったと言える。

 が、ここにきて読売が論調を修正した。民法改正案が成立すると、国会の対応を評価しつつも「配偶者の権利も尊重したい」(8日付)と、9月には論じなかった法律婚の重要性を俎上(そじょう)に載せた。

 同社説は「改正に向けた議論で、自民党内には『法律婚に基づく家族制度が揺らぎかねない』『不倫を助長する』といった懸念が強かった」とし、「仮に故人の配偶者と婚外子の間に面識がなかった場合でも、突然現れた婚外子が配偶者の子供と同じ額を相続することになる。家屋以外に財産がない相続では、配偶者が家屋を売却し、婚外子に相続分を支払うケースが増えるとの見方も出ている」と、判決への否定的見解を紹介する。

◆評価されてよい豹変

 その上で「故人に長年連れ添って家庭を築き、共に財産を形成してきた配偶者と、その子供の権利が損なわれるという自民党などの指摘には、うなずける面がある」と判決への批判を肯定的に捉え、「こうした問題に対処し、法律婚に立脚した家族制度を維持していくためには、嫡出子・婚外子の相続格差によってではなく、別の仕組みや手段を講じるべきだ」と論じた。

 そして「家族が社会の基礎を構成することは、これからも変わるまい。東日本大震災では家族の絆の大切さを国民が再認識した。今回の民法改正を機に、改めて家族のあり方に関する議論を深めていきたい」と、いささか自省的な言葉で結んでいる。

 こういう判決への疑問は今生じたわけではない。それ以前から問題視されてきたもので、それを読売は婚外子の「平等」ばかりに気をとられ、家族の全体像を見失っていた。とは言え、過(あやま)ちては改むるに憚(はばか)ることなかれ、と故事にある。読売の豹変は評価されてよい。

 これに対して産経の態度は腑に落ちない。同社が発行する月刊『正論』では最高裁判決への批判論文が掲載されているが、産経紙上にはこれといった論評がない。紙上でも明快に論じるべきだ。

◆「父」認定を産経擁護

 さて、家族にまつわる最高裁判決がもう一つあった。性同一性障害で女性から男性に性別変更した「父」の認定についてだ。最高裁は妻が第三者の精子を使った人工授精で出産した子供について法律上の夫婦の子(嫡出子)と認め、男性を実父と認定する判決を出した。

 これは性同一性障害と生殖医療の二つの問題がからんでおり、裁判官5人のうち2人は実父の認定に反対した。この問題では産経は法律婚擁護を鮮明にした。

 15日付主張は「(今回の両親は)特例法により性別を変更した戸籍上の男性と女性による法律婚の夫婦である。最高裁の判断が、同性婚や事実婚を認めたものと受け止めるのは間違いである」とし、「法律婚によって築かれる家族が尊重、保護されるべき社会の最小単位であることに変わりはない。日本の伝統的家族観と、技術が進む生殖補助医療との共存を支える法の整備を進めてもらいたい」と、従来の姿勢に回帰した。

 家族のあり方は読売が言うように議論を深めていく必要がある。むろん家族を守る視点からぶれてはなるまい。

(増 記代司)