LGBTの人権を強調しても思想信条の自由に触れぬNHKの二重基準

◆LGBT運動を牽引

 この欄で筆者は日本のLGBT(性的少数者)運動を牽引しているのは、メディアにおいてはNHKであるとこれまで何度も指摘し、その動きに警鐘を鳴らしてきた。性的少数者の人権を大義名分に、性の多様性や性行動の自由ばかりを強調すれば、性倫理の乱れに拍車を掛けるだけでなく、思想・信仰の自由が制限される恐れがあり、それを公共放送が後押しすることは許されないと考えるからだ。

 最近、その危惧の念をさらに強くした番組があった。2月1日放送のEテレ「ハートネットTV」だ。この番組は、NHKの中でも特にLGBT運動に肩入れしているが、この日のテーマは「“SOGI(ソジ)ハラ”って知ってますか?」

 SOGIとは、LGBT運動から出てきた造語で、この運動のウオッチャーでないと、その意味は分からないだろう。そこで、番組はこの言葉の説明からスタートした。

 SOは、Sexual Orientation、つまり「性的指向」のこと。例えば、好きになる対象が異性(異性愛)なのか、同性(同性愛)なのか、あるいは異性も同性も対象(両性愛)になるのか、などを意味する。

 一方、GIとは、Gender Identity、つまり「性自認」のこと。自分自身を男性と認識するのか、女性と認識するのかなどの、いわゆる「心の性」である。

 そこに、ハラスメントの「ハラ」を付けたのが「SOGIハラ」だ。そう言われても、当事者でないと、ピンと来ないかもしれない。番組では、SOGIハラを無くす活動の中心になっている松中権がこの言葉がつくられた理由をこう説明した。

 「LGBTへの差別をなくす運動を始めたが、差別をなくすというのは曖昧で何をしたらいいか分からない。しかし、当事者はこんなことが嫌だと具体物を示すためにハラスメントを使った」

◆信仰の自由を制限も

 具体的には、性的少数者をおとしめるような発言、学校や職場での不当な扱い、本人の許可なく勝手に性的指向を公表することなどがSOGIハラなのだと言う。要するに、当事者が「否定されている」と感じたら、ハラスメントだというのだが、実は、この運動の危険性はここにある。

 この運動が広がって、当事者やその支援者たちが「SOGIハラだ!」とどんどん叫ぶようになれば、学校や家庭で結婚の意義、性道徳についての教育ができなくなる。また、同性間の性行為を認めない宗教は少なくないが、それを信じること、つまり思想・信仰の自由に制限が加えられることにもなろう。「同性婚」を認めた米国では、既に信仰の自由とLGBTの人権の対立が深刻な問題になっている。

 番組では、視聴者からこんな疑問が寄せられた。「自分の息子は女性を好きであってほしいと願う。これもSOGIハラ?」。

 これに対して、前出の松中はこう答えている。「願うことはもしかしたら、SOGIハラじゃないかもしれないが、そのこと自体を当たり前のようにこれが幸せな姿だよね、と強要したり、もしくはこうなってほしいと直接伝えると、当事者にとってはプレッシャーに感じたり、自分が否定されたりするのでSOGIハラになってくるのではないか」

 何ともまどろっこしい解説だが、当事者が「否定された」と思えばそれはSOGIハラだと言っているにすぎない。

◆番組制作の視点偏る

 NHKの番組制作の視点は当事者の人権である。しかし、人権はLGBTだけの問題ではない。世界人権宣言は「すべての人は、思想、良心及び宗教の自由に対する権利を有する」とともに、その権利には「宗教または信念を表明する自由を含む」と明示している。また、国際人権規約は「自己の信念に従って児童の宗教的及び道徳的教育を確保する自由」を認めている。

 LGBT当事者にすれば嫌なことだろうが、同性同士の性行為を「罪」とする宗教は少なくない。それを信じることも含めて人権である。ハートネットTVは、LGBTの人権の重要性を訴えながら、この問題では避けて通ることのできない思想・信条・信仰の問題を無視した。人権をめぐるNHKのダブルスタンダード(二重基準)である。(敬称略)

(森田清策)