北の融和姿勢に懐疑的かつ「非核」が大原則の慎重論を展開した各紙
◆北が微笑み外交展開
氷雪上の熱戦を繰り広げる平昌冬季五輪もやや色あせて見えるような光景である。何より開会式以降、肝心の競技よりもサポーターの方がフットライトを浴び、五輪が美女応援団や芸術団の振りまくさっそうとした愛嬌(あいきょう)に魅了されてしまったのだから。
五輪ホスト国の文在寅大統領はこの10日に、五輪開幕式に合わせて訪韓した北朝鮮の金正恩・朝鮮労働党委員長の特使として派遣された妹、金与正(キムヨジョン)氏(党中央委第1副部長)らと会談した。双方は平和と和解の雰囲気の維持、対話や協力の活性化で一致したという。
さらに北朝鮮側は南北関係改善への意思を盛り込んだ正恩氏の親書を手渡し、与正氏が口頭で文氏の訪朝を要請し、3回目の南北首脳会談開催を呼び掛けるなど微笑(ほほえ)み外交を展開。北の代表団団長である金永南(キムヨンナム)・最高人民会議常任委員長を従えた与正氏は、際立つクールな微笑みで国際社会に南北融和を演出し、五輪を乗っ取るほどの堂々たる外交デビューを果たしたと言えよう。
◆成果急ぐ文氏に警告
だが、南北首脳会談の呼び掛けに対して新聞の論調は強弱はあるが、懐疑的かつ厳しい姿勢の慎重論を展開した。
大きく分けて、非核化抜きの会談は無意味とする慎重論と北のたぶらかしに利用されるなと警告する否定論である。前者はそれぞれ「南北首脳会談は非核化の進展が前提だ」(日経社説14日)、「『核』抜きの改善はあり得ない」(読売社説11日)、「非核化の目標、堅持を」(朝日社説・同)のタイトル。後者は「平和攻勢に惑わされるな」(毎日社説11日)、「文氏は『誘い水』に乗るな」(産経主張11日)、「文氏は日米韓の連携乱すな」(小紙社説12日)と、それぞれ文氏に「だまされるな」と強く戒めている。
冒頭から「筋の悪いくせ球だ。独裁者のエゴを貫くために計算され尽くした甘い言葉に、惑わされてはいけない」と切り出した毎日は、いつになく鋭い目の覚めるような批判を展開した。北の狙いについて「核・ミサイル開発に対する経済制裁で陥った苦境を打開しようという北朝鮮の狙いは明白だ」「閉塞(へいそく)状況を打破する突破口として、対話に前向きな文政権に狙いをつけたのだろう」と洞察。「(北が核放棄に応じない姿勢が明確なのに)成果を急ごうとする文氏の態度には危うさを感じる」「国際包囲網を突破しようとする北朝鮮に手を貸すことになってしまう」と警告する。
北朝鮮の核・ミサイルの脅威に直面する「状況を打開することにつながらない限り、南北対話の進展は有害」だと言い切る産経も「拙速に南北対話を進めるのは、国連から制裁を科されている正恩氏に救いの手を差し伸べるに等しい。日米の呼びかけ、国際社会が進めてきた圧力強化の努力を台無しにする」と舌鋒(ぜっぽう)鋭く迫る。
文政権が訪朝要請に前向き姿勢なことにも、それが北の非核化に向けたものでなければ「核・ミサイル開発は続いている。平昌五輪後もさらに、時間稼ぎを許すことになろう」と見通し、今回の与正氏らの派遣は「北朝鮮が苦境を脱するための誘い水にしたいのだろう。対北政策を緩める必然性はない」と結ぶ。毎日、産経ともにわが意を得たりの正論である。
◆米韓同盟堅持求める
両紙の強い主張に比べると、読売、日経、朝日の3紙は批判や警告よりは抑制的な懸念の表明で物足りなさはあるが、「非核化の堅持」の原則は貫いている。
北が「韓国を取り込もうと対話攻勢を強めたのは明白だ」と読む読売は「核問題で進展がないまま、国際包囲網が破れる事態を警戒せねばならない」と訴える。また文氏が今回の会談で、北側に直接、核開発の放棄を求めなかったことを看過できないと批判。五輪後、北が米韓合同軍事演習の中止を求め揺さぶってくるのを見越し、文氏に「米韓同盟の堅持に努めるべきだ」と呼び掛けた。日経の核・ミサイル問題棚上げの緊張緩和は「北朝鮮によって核開発の時間稼ぎに利用されるだけだ」と見切った指摘も妥当である。
朝日は訪朝要請に文氏が「『早期の米朝対話が必須だ』と与正氏に求めたのは適切な判断」だと評価。「米国などとの調整に加え、国連安保理制裁の効果を損ねる行動は厳に慎」むことを文氏に求めたことも適切な指摘である。
(堀本和博)