株価の乱高下で早くも試練の新FRB議長の手腕を問う日経社説
◆長期金利上昇を嫌気
史上最高値を繰り返していた米国株式市場は、このところ株価が大きく乱高下する荒れた展開になっている。
発端は1月の米雇用統計で民間部門の平均時給が前年同月比2・9%上昇し、約8年半ぶりの高水準となったこと。賃金の上昇は物価を押し上げるため、米連邦準備制度理事会(FRB)が利上げを加速させるのではとの観測から長期金利が上昇。これを嫌気して株が大きく下げたのである。
折しも、FRBのトップがイエレン氏からパウエル氏に代わる時期と重なり、新議長にとってはいきなりの大きな初試練となっている。
この時期、3日付で「安定成長に手腕問われる新FRB議長」、4日付では「米株安は適温経済の転機か」と米経済についてタイムリーな社説を掲載したのは経済紙、日経で、さすがである。
日経が言う「適温経済」は、緩やかな成長が続く一方、低インフレでFRBが引き締めを急がない状態のこと。そうした環境の中で、投資家はリスクを取る姿勢を強め、一部では業績に照らして割高感もあった株式に資金を振り向けたが、米株価の急落はそうした状態が「転機を迎えているのではないか、との懸念を映していると見ることができる」というわけである。
もっとも、これまでが「適温経済」だったかどうかはともかく、株価の面ではトランプ米大統領の大型減税もあって最高値更新を続けるなど過熱気味だったから、株価急落というインフレ懸念への過敏な反応となったが、沈静化への調整と見る専門家もいる。
ただ、日経が指摘するように、米金利の上昇をきっかけに世界の金融市場が混乱すれば、実体経済に悪影響が及びかねないのは確か。その意味で、同紙4日付社説の「パウエルFRB新議長は市場のメッセージを丁寧に読み、世界への影響も考えて金融政策を運営すべきだ」との指摘は当然である。
◆背景に米景気の拡大
株価急落の発端となったインフレ懸念、米金利上昇は、米景気の拡大が背景にある。日経4日付社説は「米景気の拡大は欧州やアジア企業の業績も押し上げ、株価を下支えする要因と考えられる。短期的な株価の乱高下に委縮せず、長期の視点に立つことが欠かせない」と強調するが、同感である。
3日付社説は、パウエル新議長の当面の課題として、過去4年間で異例の金融緩和の縮小を進めたイエレン氏を引き継ぎ、「円滑に金融政策を正常化し、安定成長を実現する」こととした。これも的を射た指摘である。
具体的には、当面はイエレン氏の路線を引き継いで保有資産の縮小と政策金利の引き上げを進めていくことになるが、今回の株価急落のように、「現状の政策を維持するだけでなく、情勢変化にあわせ、機動的に政策を調整する必要も出てくる」と強調。
また、「問われる手腕」の内容として、「トランプ政権との関係も気になるところ」とし、今後、大型減税に続いて提案されている1・5兆ドルのインフラ投資で予想以上に景気が過熱した際に、トランプ大統領が利上げを急がないよう圧力をかけることも予想されるが、その時に「中央銀行として毅然とした対応をとれるかどうかも焦点」と抜かりがない。経済紙としての面目躍如といった感じか。
◆対応を迫られる日銀
米FRBが金利正常化の道をゆっくりながらも着実に進める中で、日銀に対応を迫ったのが、4日付読売社説「日銀金融緩和/増す副作用にどう対処するか」である。
日本の景気拡大は戦後2番目の長さに達し、雇用の改善も進むなど、日銀の金融緩和は景気拡大に効果を上げる一方、副作用が多方面に目立ち始めている。マイナス金利による銀行経営への圧迫、日銀の国債大量買い入れによる機関投資家の運用の狭まり、行き場を失った大量の資金による大都市の地価高騰などの「ミニバブル」化などである。
先月に日銀が開いた政策決定会合でも、複数の委員が緩和策の見直しに言及するようになった。読売は、4月に5年間の任期満了を迎える黒田総裁の次の総裁任期は、「黒田氏続投の有無にかかわらず、異次元緩和後の金融正常化が主要なテーマになるのは間違いない」とした。金融緩和の見直しは、株価が急落したように「慎重を期す必要がある」(読売)が、もはや時間の問題か。
(床井明男)