米国社会の底流にある宗教と家族の力を見落としているリベラル各紙

◆トランプたたき続く

 米国にドナルド・トランプ大統領が登場して丸1年。リベラル紙では相変わらず紋切り型のトランプたたきが続いている。例えば毎日社説は「米国の品格 高慢さが世界を暗くした」(1月19日付)と言い、朝日社説は「危ぶまれる米国の理念」(20日付)と批判する。

 だが、巷間(こうかん)からは「トランプ、やるじゃないか」との声が少なからず聞こえてくる。米国が劇的変化を遂げたからだ。大統領就任後、トランプ氏は連邦最高裁判事に保守派を起用し、大型減税を断行。1月には国防戦略を発表し、一般教書演説では「新たな米国の時代」を宣言。2月には核戦略を見直し、中露や北朝鮮に対抗する「核抑止力」の強化姿勢を鮮明にした。

 いずれもアンチ・オバマ政策で、オバマ前大統領らによる「リベラル革命」の継続を間違いなく阻止した。その意味で「トランプ保守革命」と呼んでよい。こうした視点を提供したのは本紙だけだ。トランプ1年を論じたシリーズでは「社会問題で保守路線、福音派の熱烈な支持続く」(1月20日付)と、トランプ氏を大統領へ押し上げた米国社会の底流を報じている。

◆予測外した反省なし

 これに対して朝日はニューヨーク支局の金成隆一記者が五大湖周辺の「ラストベルト」(さび付いた工業地帯)に通い続け、「熱狂のあと」とのルポ記事(21日付)を綴(つづ)っているが、取材先はもっぱら食堂や酒場。福音派の人々が通う教会は蚊帳の外だった。

 一般教書演説も懐疑的に報じるが、本紙4日付の米コラムニスト、マーク・ティーセン氏は全く違った情報を伝えている。「演説は感動的で妥当なものだった。党派を超え、人々の心に届いた」とし、CBSニュース-ユーガブの直後の調査を紹介している。

 それによると、視聴者の75%が演説を支持した。共和党員の97%、無党派の72%、民主党員の43%が支持を表明したという。こういうトランプ氏に良いニュースは「報道しない自由」なのか、リベラル紙には見当たらない。

 核戦略見直しについても朝日は「歴史に逆行する愚行」、毎日は「新たな軍拡競争を恐れる」(いずれも4日付社説)とし、核抑止力を顧みない。こんな批判の矛先は中国やロシア、北朝鮮に向けるべきと思うのだが、それには沈黙する。

 一昨年秋の大統領選で日本のメディアは米国のリベラルメディアの尻馬に乗ってクリントン氏に肩入れし、トランプ勝利を予測できず大恥をかいた。トランプ支持基盤の福音派のみならず、「隠れトランプ票」と呼ばれた中間層の思いを軽んじたからだ。どうやら1年経ってもその姿勢は変わっていないようだ。保守嫌い、宗教嫌いがそうさせるのだろうか。

◆福音派の大覚醒運動

 彼らには米国社会を論じた古典的な著作を紹介したい。それはフランスの政治思想家アレクシ・ド・トクヴィルの『アメリカの民主政治』(1835年)だ。

 当時の米国は民主主義が高揚し「ジャクソン・デモクラシー」と呼ばれた。白人成年男子が全て選挙権を持つようになり、丸太小屋生まれの「セルフ・メイド・マン」(独立独行の男)が人気を博し、「庶民」政治家のジャクソンが大統領になったからだ。

 この著作は現在にも示唆的だ。トクヴィルは米国民の生活が快適で安楽、甘美なものになり、物質的欲望と個人主義によって堕落していく姿に米国の病理を見た。その一方で米国の民主主義を底流から支えている存在に気付く。

 それは人々の家族や地域の絆だった。自発的に「貴族的団体」(地方自治や団体、教会)をつくり、家族と宗教がその倫理基盤を支えていた。それをトクヴィルは「心の習慣」、習慣化された社会規範として重視している。

 実際、米国で社会が荒廃した時代には福音派の牧師らが「大覚醒」と呼ばれる精神改革運動をしばしば起こした。そんなとき、英国の牧師ジョン・ニュートンが作詞した賛美歌「アメイジング・グレイス」が盛んに歌われた。

 そうした米国の底流にある宗教と家族の力を見落としては真の米国の姿が知られない。それが大統領選の予測を外した原因だったが、その報道姿勢を今も続けている。リベラル紙の米国報道を真に受けてはならないゆえんだ。

(増 記代司)