後継者不足による中小企業の廃業で危機に瀕する日本のモノづくり
◆先端技術で世界牽引
「モノづくり大国」といえば日本を表す言葉であった。大企業のみならず下町の工場で作られた製品が世界の市場を席巻することは珍しいことではない。総務省統計局の報告によると平成24年2月時点でわが国の法人企業数は170万社、個人事業主も含めると412万社に上る。このうち、東京証券取引所などへの上場企業数はおよそ3500社。中小企業数の全体に占める割合は99%以上。日本経済は中小企業に支えられているといわれるのはここに由来する。ところが、こうした中小企業が今、存続の危機に瀕している。それはかつてのオイルショックや円高といった外圧によるものではなく、高齢化、後継者不足といった内在的な理由によって廃業の危機に陥っている。後継者不足といえば農家や漁師の話と思われがちだが、製造業にもその波が押し寄せ、日本経済の屋台骨を揺るがす事態になっているのだ。
こうした企業の継承問題を週刊ダイヤモンド(1月27日号)が特集で組んだ。もっとも、その前週には週刊エコノミストが真逆の特集を組んでいる。「市場を動かすすごい技術2018」(1月23日号)と見出しが付いているが、そこでは世界を牽引(けんいん)する次世代技術を紹介。割れても常温で自動修復する「有機ガラス」、スーパーコンピューターをはるかにしのぐ量子コンピューター、超高速旅客機に搭載すれば東京―ニューヨーク間を37分で結ぶ「巨大ロケット」など、それらは何十年先の技術ではなく、既に実証済みか数年内でめどが立つ技術を日本の大学や企業が有しているというのである。エコノミストはこれらの技術を紹介し、日本の先端科学技術が世界を牽引していることを印象付ける。
◆伝統工芸も同じ悩み
一方、ダイヤモンドは前述したように、日本の中小企業の置かれた深刻な課題を浮き彫りにする。同誌は次のように訴える。「団塊世代の大量引退時期が迫り、大廃業時代の足音が聞こえる。廃業するか、事業継承を検討するか―。オーナー経営者のあなたは、わが子のように育ててきた会社への“最終決断”をどう下すべきなのか。10年後のゴールを目指して、あなたらしい『会社の畳み方、譲り方』を検討してほしい」と。
その具体例として、東京の下町、墨田区にある岡野工業は、創業者である岡野雅行社長(現在84歳)が85歳になった段階で廃業することを決定した。理由は後継者不在。同社は赤ちゃんや糖尿病患者のインシュリン注射用の「痛くない注射針」で話題になり、大手自動車部品メーカー向けの部品も製造する。世界に誇る技術を持つ企業だが、後継者がいないことで廃業の道を選んだという。
後継者不足は先端技術を持つ中小企業に限ったことではない。地方の伝統工芸事業を継承してきた自治体や企業も同様の課題を持つ。例えば品質、種類、量共に全国1位の生産を誇ってきた越前市の和紙製造は経営者、作り手の高齢化、さらに後継者不在が悩み。ダイヤモンドは中小企業庁の報告を取り上げて「日本の企業の3社に1社、127万社が2025年に廃業の危機を迎える」と警鐘を鳴らす。
◆“大家族”形成が必須
ただ、こうした中小企業の行く末を考えると、既に第1次産業とりわけ農業で農地の集積、規模集約化が見られるように、中小企業もまた買収・合併によって技術が継承され、事業が存続していくのは予想に難くない。そうした中で同誌はあえてエピローグとして宮城県の一ノ蔵酒蔵を紹介する。
県内で創業し、各々事業を続けてきた四つの小規模酒造メーカーが、1973年に合併して新会社を設立。代表取締役社長は以前の4酒造会社出身の取締役から選出し、持ち回りで引き継いでいるという。同誌は「競争が激化する上、人口減少で低成長時代に入るこれからの日本。“核家族”から“大家族”をつくり、皆で心を通わせながら企業を成長させていく。一ノ蔵の経営者リレーは、日本らしい継承の姿といえるかもしれない」と結論付ける。
確かに、これまでに「核家族」のような存在であった一つの中小企業は、劇変の時代を生き抜くため企業同士がつながり「大家族」を形成していくのは必須となってきた。それでなくとも隣国、とりわけ中国は今や宇宙開発、AI(人工知能)、量子コンピューターなどに国家が巨額の資金を投入して開発研究を進め、世界の先端技術を制しようと躍起になっている。日本にとってこれまで経済や産業技術を下支えしてきた世界に誇る中小企業の技術をつぶしていいわけがないのである。
(湯朝 肇)