新聞は日中平和友好条約40年の節目より条約の根本を問うべきでは

◆尖閣問題では平行線

 毎日(1月29日社説)が「好機逃さず対話に弾みを」と期待を弾ませれば、朝日(29日・同)も「機運つかみ首脳往来を」と一気に期待を膨らませる。一方、産経(30日主張)は「『平行線』なのに改善とは」とにべもない。日中関係が改善に向かっているとする政府の説明を、疑問だらけと首をかしげるのである。

 中国を訪問した河野太郎外相は1月28日に、中国の王毅外相、楊潔●(「竹かんむり」に「褫」のつくり)国務委員、李克強首相と相次いで会談した。その中で両外相は北朝鮮の核・ミサイル問題で国連安保理の制裁決議の完全履行などを確認、経済関係の強化や人的交流の促進などで一致し、首脳の相互訪問の重要性を確認した。しかし、河野外相が沖縄県・尖閣諸島をめぐり、中国海軍の潜水艦が周辺の接続水域を潜航航行した問題で抗議と再発防止を求めたことでは平行線に終わった。成果と言えるのは駐在員らの年金保険料の二重払い解消の協定で実質合意したぐらいとも言える。

 今年は日中平和友好条約が締結されて40年の節目の年である。「だからこそ、安定した両国関係を築く。河野太郎外相が年初に訪中したのはその第一歩だ」(毎日)と期待を掛ける。中国側も王氏だけでなく楊氏、李首相が今回、それぞれ会談に応じたことを「関係改善の意思は日中双方にある」(朝日)、「関係改善に向けた中国の意思の表れだろう。この流れを確かなものにせねばならない」(読売29日・同)というわけである。

 具体的には両国首脳の相互訪問の重要性を確認したことに言及して、毎日は「日中は昨年11月の安倍晋三首相と習近平国家主席との首脳会談を経て改善に向けた流れが定着している」と評価するのである。

◆政府の姿勢に疑問符

 これに対し産経は「改善に向けた流れが定着」としていることについて日中関係の現状から<いったいどこが改善していると言うの?>と言わんばかりの主張である。「尖閣諸島や邦人拘束などの問題で、中国が横暴に振る舞っているのを憂慮する人は多い。だからこそ、日中関係は冷え込んできたのである。…関係改善には、根本原因を取り除かねばならない」のに、それを不問にしての改善の流れとする政府説明に「首をかしげる」のだ。

 産経も、首脳同士の顔合わせや率直な意見交換の機会が必要なことは認めている。その上で「首脳の相互往来といった形式を整えるだけでは、真の友好に結びつかない」「最近の対中外交は、その実現へ融和ムードを醸し出すことに労力を注ぎすぎていないか」と政府の対中外交姿勢を厳しく問う。日中改善ありきのムードに流されない産経の問題提起は貴重であり、当局者にはしっかり留意を求めたい。

◆反覇権条項の対象に

 そもそも今年が締結40年の節目と強調する日中平和友好条約(1978年8月12日締結)は、第1条で主権・領土の相互尊重、相互不可侵、相互内政不干渉、第2条で反覇権をうたっている。この反覇権条項は当時の激しい中ソ対立を反映して中国がソ連を牽制(けんせい)する反覇権の文言を入れるように要求してできたものである。

 当然、ソ連が反発し、このために日本は「(反覇権が)第三国との関係に関する各締約国の立場に影響を及ぼすものではない」(第4条)とする第三国条項を加えた。反覇権条項は「アジア、太平洋地域においても又は他のいずれの地域においても、覇権を求めるべきでな」い。「いかなる国又は国の集団による試みにも反対する」としている。こうして、反覇権条項は世界のどこでも覇権に反対するという普遍的な立場を明らかにしたものとなったのである。

 産経は「日中平和友好条約締結40年の節目となるが、最近の両国関係は『平和』や『友好』とはほど遠い」と断じる。実際、南シナ海でも日本固有の領土である尖閣諸島などの東シナ海でも中国が見せている力による現状変更の動き、横暴な振る舞いは覇権そのものではないのか。反覇権条項が今の中国に向けられるのは皮肉というほかない。新聞は条約締結40年の節目だからと流すだけでは、産経の言うように「真の友好に結び付かない」であろう。新聞は条約の根本から「平和」や「友好」を問うべきである。

(堀本和博)