トランスジェンダーを主人公にしたNHK「女子的生活」の家庭破壊思想

◆反権力的風潮を反映

 NHKがテレビ放送を開始したのは1953年2月。同年8月には、日本テレビが開局している。テレビ界は今年、放送スタートから65年になる。人間で言えば、高齢者の仲間入りだから、円熟味を増してバランスの取れた考え方をするようになるものだが、テレビ界への左翼思想の浸透ぶりを考えると、そうした期待はないものねだりなのかもしれない。

 テレビが還暦を迎えた前年の2012年秋、「懐かしのテレビ黄金時代」という本が出版された。著者は映画評論家の瀬戸川宗太氏。この本が強く印象に残ったのは次のような理由からだ。

 「私の秘密」「ジェスチャー」「お笑い三人組」(以上NHK)、「てなもんや三度笠」(TBS)など、昭和30年代の人気番組を取り上げながら、瀬戸川氏は当時のテレビ文化を高く評価している。その一方で、東西冷戦中だった1960年代のドラマについては「当時の社会派作品には、スターリン主義時代の理論に基づく左翼イデオロギーの影響が影を落としているから、何でもかんでも手放しで評価することはできない」として、反権力的風潮の影響があったことを指摘している。

 その例として、俎上(そじょう)に載せたのは岩下志麻主演で話題となった「土曜劇場 花いちもんめ」(フジテレビ、68年)だ。妻に先立たれた中年男とその息子5人が暮らす家に、突然腹違いの娘(岩下)が飛び込んで来るというストーリー展開だが、そこには「既成の家庭秩序をかき乱そうという制作側の意図が明確」にあって、それが「反権力、反権威の時代風潮」とあったから、若者の心をつかんだのだという。

◆愛と性の自由あおる

 冷戦終結からもうすぐ30年。今どき、左翼的な反権力ドラマははやらないだろうと思う視聴者もいるだろうが、制作者に明確なイデオロギーがあるかどうは別にしても、家庭秩序をかき乱そうとするドラマは増えるこそすれ、減ってはいない。

 NHKは1月5日からの「ドラマ10」(金曜夜10時から)で、体は男子だが、心は「女子」というトランスジェンダーを主人公にした「女子的生活」を放送している。これまで3回が終わり、残すのは後1回となったが、コミカルで「痛快ガールズストーリー!」(番組ホームページ)の、この若者向けドラマも、愛と性の自由をあおるという点では、伝統的な家庭秩序を破壊するドラマである。

 「LGBT」(性的少数者)の一つとなっているトランスジェンダー(T)といえば、10年ぶりに改訂された広辞苑の説明に誤りがあったとして騒ぎになっているが、それほど分かりにくいのだ。LGBTのうち、女性同性愛者のレズビアン(L)、男性同性愛者のゲイ(G)、両性愛者のバイセクシュアル(B)の三つは、性的指向つまり性愛が同性に向かうか、それとも両方の性に向かうかである。

 だが、Tはまったく別の概念で、自分は男それとも女と思っているかという内なる意識つまり「性自認」の問題だ。広辞苑はTまで含めて「多数派とは異なる性的指向をもつ人々」と記してしまったのだが、そもそも違うものを、LGBTと一くくりにしたところに誤解の遠因があるのだ。

◆理解困難な特異人物

 「女性的生活」の主人公「みき」は、トランスジェンダーの中でも特に複雑な人物だ。心は女なのだから、好きになるのは男かと思えば、女である。だから、性的指向を、心を基準にしてみればレズビアンになり、体から考えれば異性愛者ということになるが、一般の視聴者がそのような人間を理解するのは難しい。それもそのはずで、専門家の間にも同性愛、異性愛あるいは両性愛という言葉では、Tの人間の性的指向を表すことはできないという声もあるのだ。

 結局、ドラマのみきは、最近はほとんど聞かれなくなったが、いわゆる「ジェンダーフリー」思想を具現化させたような人物ということもできる。そんな特異な人物を主人公にするドラマが映し出すのは、愛と性の秩序、そして伝統的な家族秩序を否定的に捉える思想を日本に広めようというNHKの左翼偏向度の深刻さである。

(森田清策)