中国潜水艦の尖閣航行を小さく扱い「サラミ戦術」に手を貸す沖縄2紙
◆徐々に既成事実作る
「サラミ戦術」。ハンガリー共産党のラーコシ書記長の造語として知られるこの言葉が「尖閣に潜水艦 中国の本性を見過ごすな」と題する産経13日付主張に書かれていた。
尖閣諸島(沖縄県)の接続水域に中国海軍の水上艦と潜ったままの潜水艦が航行し、後に公海で浮上して中国の国旗を掲げた。中国の潜水艦の航行は初めてのことで、産経は「習政権の中国は、挑発を控えるどころか、徐々に既成事実を重ねて有利な立場を得ようとする『サラミ戦術』をとってきた」と指摘した。
サラミ戦術は第2次大戦直後のハンガリーに誕生した左翼連立政権下で、ラーコシが敵対勢力をサラミを薄切りするように徐々に抹殺し、最後に共産党の1党独裁政権を樹立したことに由来する。
尖閣諸島について中国が自国領土と言い出したのは海底油田が存在するとされた1971年のことだ。最初は口だけだったが、漁船、次いで中国海警の巡視船、そして海軍艦船を送り込んだ。それが日本の実効支配を徐々に崩すサラミ戦術というわけだ。
すでに産経の古森義久・ワシントン駐在客員特派員が警鐘を鳴らしていた。米国議会の超党派の「米中経済安保調査委員会」の2017年度報告書が昨年11月、中国が尖閣諸島を軍事攻撃で奪取する作戦計画を進めていると警告を発しているとし、「日本側にはどんな準備があるのだろうか」と問うていた(昨年12月16日付「緯度経度」)。
共同の塩沢英一・台北特派員は習近平主席が昨年2月の軍幹部の非公開会議で尖閣諸島について「(中国の)権益を守る軍事行動」の推進を重視する発言をしていることが中国軍の内部文書で分かったと伝えている(12月2日配信)。
◆各紙とも1面で報道
そんな情報が相次ぐから「尖閣に潜水艦」は小さなニュースでないはずだ。読売と毎日は12日付1面トップ、産経と本紙も1面で報じたのは当然だ。潜水艦が浮上すると産経は13日付1面トップで「追尾の自衛隊を挑発か」と報じ、本紙14日付社説は「これで対中関係改善できるのか」と論じた。朝日は12日付では3面だったが、13日付では1面に潜水艦の写真を掲載した。さすがに軽視できなかったか。
ところが、尖閣が地元の沖縄紙はまるで人ごとで、いずれも扱いが小さい。いや、小さ過ぎた。とりわけ沖縄タイムス12日付は目を凝らしてようやく見つけた。3面下段に1段見出しのベタ記事でわずか28行の短報だった。潜水艦が浮上し中国国籍が確認されても13日付はさらに短く14行。写真もなく、無関心を決め込んでいる。
沖縄紙はしばしば「本土紙は沖縄の記事の扱いが小さく、沖縄を差別している」と言う。それなら、このニュースこそ率先して大きく扱うべきだ。それが県民の安全保障に関わるニュースとなると、とたんに口をつぐむ。こと中国となると一層そうする。
何も今回だけの話ではない。沖縄タイムスの元旦社説は「戦争起こさない努力を」との見出しを掲げたが、中国の軍拡には一言も触れなかった。逆に「南西諸島では自衛隊配備計画が着々と進む。日米一体化の軍事要塞化に伴う沖縄の負担は計り知れない」とし、「観光は平和産業である。ひとたび武力衝突の事態になれば沖縄観光は吹っ飛ぶ」「新年に当たって『政府の行為によって再び戦争の惨禍が起こることのないようにする』(憲法前文)ことを改めて決意したい」などと、まるで日本が戦争を起こすかのようだ。
◆事実を曲げ中国擁護
来年度の防衛予算を論じた昨年12月21日付の社説では「中国ではトランプ政権の対中戦略を念頭に国防費の増額が続いている。自国の安全を高めるための防衛力増強が、他国の軍拡を招き、結果として緊張を高める」と、トランプ政権と安倍政権のせいで中国が軍拡していると言わんばかりだった。
話はまったくあべこべだ。中国の軍拡はずっと以前からのものだ。オバマ前政権や日本の歴代政権の“軍縮”で一層、拍車を掛けているのが実相だ。
なぜ事実をねじ曲げて中国を擁護するのか。世間で言われている沖縄紙は中国の第五列(協力者)との批判もあながち的外れでない。サラミ戦術に手を貸している。
(増 記代司)