訪日外国人客が見いだす「日本」の良さや潜在性を伝えた新春「新報道」
◆SNSが変える流れ
驚きの瞬間や笑える一発芸、干支(えと)の戌(いぬ)年にちなんだ愛犬のかわいい仕草など、お茶の間で視聴するテレビでもネット上にあるような投稿動画の映像が目立つ。ネット時代は情報の流れをいろいろと変えている。
とりわけ、携帯端末は見知らぬ土地の道先案内として重宝するもので、観光客の流れも変えた。昨年の外国人訪問者は19・3%増の2869万人だが、7日放送のフジテレビ「新報道2001」新春スペシャルで扱った外国人観光客の年末の訪問先を見ると、ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)に投稿された写真や口コミなどを通じて、意外な場所まで旅をしているのが面白い。
冒頭、「年の瀬に、隅田川の近くで外国人が集まる場所がある」というナレーションで、東京・日本橋浜町にある荒汐部屋の相撲の朝稽古に来た外国人たちを紹介。ビル1階の荒汐部屋は店のショーウィンドウのように窓を大きくし、力士の稽古が見える。
また、多くの外国人が訪れる京都でも、市の北西の山の中で交通も不便な愛宕念仏寺に1日300人もの外国人が訪れるのだという。目当ては1200ある羅漢像といい、投稿写真サイト「インスタグラム」で注目されるためだ。いわゆる「インスタ映え」狙いだが、ネットの拡散力もさることながら、異文化に触れる新鮮な感性には恐れ入る。
京都の古びた屋敷で日本刀を用いる居合いを行うサムライ体験、雪深い群馬県利根郡の宝川温泉「汪泉閣」の露天風呂、東京・王子の稲荷神社の伝承にちなんだ年越し行事である狐の行列など、メジャーな観光地とはひと味違う日本文化を直(じか)に体感する触れ合いを求めているのが分かる。外国から見いだされる「日本の良さ」に日本人の方が気付かされるぐらいだ。
他に、ベトナム人旅行客の爆買いや、寂れつつあった商店街が外国人客によって活気を取り戻した大阪・黒門市場の紹介など、インバウンド効果を期待させた。締めくくりのナレーションも「日本にはポテンシャルがある」と、年の始めらしく明るく希望を与える内容だった。
◆大変革起きる未来像
逆に未来を不安視するのが同日放送のTBS「サンデーモーニング」の新春特集「“揺らぐ世界”~時代の変わり目に~」だ。科学技術が進歩する一方、対立・紛争を起こしてきた人間は相変わらずで、今や資本主義社会は行き詰まりを迎えているとみていた。
番組は、正確に遺伝子を組み換える技術などさまざま取り上げたほか、2045年には人工知能(AI)が人類の知能を超える「シンギュラリティ」が起こって、人間社会に大変革をもたらす未来像を紹介。タイトル通り、時代の変わり目を迎えるとみる。
そこで英国で産業革命が起きた18世紀後半から、欧米列強のアジア、アフリカ植民地化、第1次世界大戦、世界恐慌、ヒトラーのナチス・ドイツ台頭、第2次世界大戦、社会主義・資本主義の東西冷戦など近代史を振り返った。
言わんとすることはソ連が崩壊した冷戦後の世界は米国を中心とした資本主義の世になったが、それも矛盾を抱えて、スタジオにパネル表示された「〇〇ファースト」に向かうと危惧しているのである。トランプ米大統領の「アメリカ・ファースト」をイメージさせたいのだろう。
その上、ここにナチス台頭の教訓を引き合いに出したいようで、番組はドイツで躍進した右翼政党・ドイツのための選択(AfD)党首に取材。だが、難民排斥発言など全くない。「ヒトラーは絶対悪ではない」と発言した議員がいるとの指摘にとどまった。今日の同国で選挙に出られる同党をナチスに結び付けるには無理があろう。
また、インド人民党からモディ首相が就任したインドで、ヒトラーの「わが闘争」がベストセラーになっていると問題視。ヒンズー教至上主義を掲げる同党の政権になり、イスラム教徒を迫害する事件が増えたと批判的だ。
◆中朝など懸念すべし
しかし、“ヒトラー捜し”に遠くドイツやインドに行くより、すぐ近くの独裁を取り上げないのが不思議だ。もっと番組が懸念すべきは、北朝鮮、中国、あるいは「イスラム国」(IS)のような非国家の過激派組織が、将来の科学技術をどう用いるかではないか。既に北朝鮮の核兵器開発で大わらわなのだから。
(窪田伸雄)





