北朝鮮情勢の緊張に日本の行動求めた「新報道2001」の米専門家
◆割れる衝突の可能性
トランプ米大統領のアジア歴訪を控え、先週10月29日の報道番組は、衆院選後の与野党動向とともに、同大統領歴訪の際に重要テーマとなる北朝鮮の核ミサイル開発問題に焦点を当てた。
北朝鮮は9月まで各種ミサイル実験を繰り返し、同国で最大の地下核実験も行い、あからさまに核攻撃の脅迫をするようになった。これに対しトランプ大統領は、金正恩朝鮮労働党委員長にあだ名を付け、国連総会演説で“ロケットマンの自殺行為”と非難し、「米国や同盟国の防衛を迫られれば、北朝鮮を完全に破壊するしか選択肢はなくなる」と言い切った(9月16日)。
トランプ発言に北朝鮮の李容浩外相は「明確な宣戦布告だ」と反論し、太平洋での水爆実験を示唆した。以来、巷間(こうかん)では軍事衝突になるか関心事となっている。
フジテレビ「新報道2001」は、朝鮮半島近海に米空母3隻が集まり、米戦略爆撃機B1Bが10月に半島の南北軍事境界線付近まで飛行し、沖縄の米軍基地にもトランプ大統領来日に合わせて最新鋭戦闘機F35Aが配備される展開に、「イラク戦争の直前がまさにこんな感じだった」(上智大学教授・前嶋和弘氏)という識者の発言で、緊張の高まりを訴えた。
軍事衝突の可能性について、ブレナン前米中央情報局(CIA)長官「20%~25%」、アーミテージ元国務副長官「約25%」など米専門家の分析を引用。スタジオ出演した笹川平和財団特任研究員・小原凡司氏は、北朝鮮は核放棄せず緊張が高まり米国が最終的に軍事力を行使する可能性は高まるという理由で「約70%」。拓殖大学大学院特任教授・武貞秀士氏は、北朝鮮に機雷敷設の動きが全くないという理由で「1%以下」。見解が極端に割れた。
◆安保問題に狭い論議
また、番組が取材した米戦略問題研究所上級顧問エドワード・ルトワック氏は、トランプ大統領の「全ての選択肢がテーブルの上にある」という発言について、「全てのオプションがそろっているということは何もしないということ」と解説し、「日本が動けば米国も動く」との見方。ナレーションの声の間に聞こえた同氏の「…ディサイド・トゥ・アタック」の声から、「動く」と言うより「攻撃を決意する」と実際は言ったようだ。
ルトワック氏を取材した番組は、発言を「暗号のような言葉」と表現。韓国が延坪島砲撃など北朝鮮から何度も攻撃されながら軍事的対応を取らなかったことをいぶかる同氏は、日本に「行動」を求め、北朝鮮が核ミサイルを開発するまでの残されている時間は短いことを強調していた。日本の出方が重要ということだろう。
議論は安保法制に及び、スタジオ出演した自民党の佐藤正久参院議員・外務副大臣は同法制での日米による対応を述べる一方、同法制に反対する立憲民主党の長妻昭代表代行は日本の危機であり「専守防衛」として対応すると主張した。2年前の安保法制の審議で当時の民主党は集団的自衛権の行使を禁止していた政府憲法解釈を変えず、「専守防衛」を拡大解釈すると訴えていたが、憲法9条の制約で日本の安全保障をめぐる「行動」は不毛で狭い議論に陥りやすい。
◆他国情勢分析に傾倒
このためであろうか、北朝鮮問題では米国はどうする、北朝鮮はどうする、中国はどう出るなど、他国の分析に傾倒し、日本はどうするかの議論は抽象的になる。「日曜討論」も同様だ。「トランプ大統領アジア歴訪へ どうなる北朝鮮情勢」をテーマに識者らが議論したが、情勢分析は、北朝鮮は核放棄をせず、経済制裁も体制変革には至らない――など厳しい認識が相次いだ。国際的連携や日米同盟による対処の重要性にも触れていたが、踏み込んだ発言にはならない。
北朝鮮からわが国も核攻撃の恫喝(どうかつ)を受けている。どう封じるか、独自の反撃力を持つか、非核三原則を見直すか、核武装で対抗すべきかなどの論議が出ても不思議ではない。かつてタブー視された憲法改正も、時代の変化を背景に改正手続きのための法整備が実現したが、これは「論憲」という論じるところから始まった。理に適(かな)えば論じることにより状況は動くはずだ。
(窪田伸雄)