大国の自然災害対策の不備な実情を垣間見せたNW日本版山火事記事
◆900平方キロが焼失
10月初旬、米国カリフォルニア州で恐るべき山火事が起きたことは、日本のメディアでも現場の映像を含め、かなり大きく取り上げられたから、憶(おぼ)えている読者も少なくないと思う。ニューズウィーク日本版10月24号では、「『悪魔の風』か温暖化か 最悪の山火事の原因は?」と題し、この災害の原因について論じている。
記事によると、山火事は10月8日にカリフォルニア州北部で発生し、ワインの名産地として知られるソノマ郡一体を襲った。その勢いはすさまじく、14日時点で住民ら35人が死亡、900平方キロの土地が焼失した。
900平方キロといえば、30キロ四方、関東平野の半分以上の広さで、島国に住む日本人には、わずかの時間でこれだけの土地が火災で廃虚になったことはちょっと想像もできない。記事に添付された被害を受けた住宅地跡の写真は、広大な更地と化した異様なものだ。辺り一面の存在を一切消してしまう火事による災害のむごたらしさに唖然(あぜん)とさせられる。
同地域では例年、高温で乾燥しがちな5~10月に山火事が多く、火事はそのシーズン中に起きた。今年は例年より雨が多く、そのおかげで茂った草木が次々に燃え被害が広がった可能性がある。
その上で、急激な延焼をもたらしたのは「風」(農務省林野局の生態学者エリック・ナップ)だとしている。これは、地元周辺で「ディアプロウインド(悪魔の風)」と、ものものしい名称が付けられている秋風で、「現に10月8日頃には最大風速30メートル以上の暴風が観測されており、これで山火事が林野に駆け下りてきたと考えられる」(同)という。
だが何といっても「30メートル」の強風は予想できなかった異例のことで、筆者のエレノア・カミンズ記者は「今回の山火事には気候変動も関係しているのだろうか」と問い掛ける。これに対し先のナップ氏は「気候変動と関連付けるのは性急過ぎる。しかし温暖化が山火事を深刻化させているのは間違いない」と答えている。
山火事の原因について、一歩踏み出した発言だが、記事での追及はそこまで。
◆自然の猛威には無力
「実際、80年代以降、アメリカ西部の山火事はひどくなっている。このまま高温化・乾燥化が進めば、カリフォルニアの一部地域では一年中が山火事の季節になりかねない」と。自然の猛威に対して、お手上げ状態の悲観的な思いをまぶした内容だが、週刊誌一流のジョーク交じりの締め方で記事をそつなくまとめている。
果たして、記事にあるような強風の異変が、気候変動の影響かどうか、現在、正すことができないのは事実のようだ。しかし米国は、今日、数十光年先の太陽系外の生命の在りかを探求できるほどの自然科学力を保有している。
その力を持ってして、本気になって懸かれば、地球上の異例の大雨、風の原因、理由を調査・分析することは可能だろう。その上で「気候変動」の国民生活への影響について一定の結論を導き出すことはそれほど難ではない。
わが国のように、居住地面積がごく限られ、「災害列島」と言われるほど自然災害の種類も数も多い地では、国民が気象変化に敏感で、異常気象についての関心も高い。政府機関の研究も進んでいる。
それに対し、大量消費・大量廃棄のライフスタイルしか知らない米国では、災害に襲われた場合の対応は、被害をできるだけ軽くする「減災」だという考え方はなじまないのかもしれない。これでは、米国が地球環境問題でもイニシアチブを取ることを期待できないように思う。
◆異常気象に大国鈍感
気象変動の影響は、海の異変現象(海面上昇、海水温上昇)による生態系の変化を見ても明らかだ。ここは地球の引力と自転の関係でこれまで台風はなかった地域だが、一昨年来、勢力の強い熱帯低気圧が頻発。赤道下の島嶼(とうしょ)国は今までにない大きな被害を受けている。また時期を選ばず大雨が降り、大潮が襲ってきたり、多雨と干ばつという気象の両極化も進んでいる状況だ。
これに対し、米国、中国、ロシア、インドのような大陸国は、海の異常だけでなく、「陸」の気象変化に対して一様に鈍感だ。自然災害の深刻化に輪を掛けることにならないか。
(片上晴彦)