HIV感染リスク者に検査を勧めても献血やめよと言わないNHK
◆危険な男の同性交渉
12月1日は「世界エイズデー」だった。最近、テレビでエイズに関する話題が取り上げられることはめっきり少なくなっていたが、世界エイズデーを前に衝撃的なニュースが流れた。
エイズウイルス(HIV)に感染した献血者の血液が、検査をすり抜けて患者2人に輸血され、そのうち1人がHIVに感染したことが明らかになったことだ。もちろん、テレビのニュース・情報番組でも大きく取り上げていたが、気になったのは厳しく非難されてしかるべき献血者に対する甘い姿勢で、HIV感染リスク行為を危険視することを避ける報道風潮さえ感じられた。
献血したのは40代の男性。今年2月に献血した際、6カ月以内に同性との性交渉があったが、それを虚偽申告して隠していたのだから、明らかな献血のルール違反で、国によっては犯罪となる行為だ。
日本赤十字は輸血によるHIV感染を防ぐため、献血後に検査を行っているが、感染から一定期間は血液中のウイルスが少なく検査で検出されない(ウインドー期間)。この男性もこの期間にあったため、検査で感染が判明しなかったとみられる。
こうした事態を防ぐため、日赤は過去6カ月以内に①不特定の異性または新たな異性との性的接触②男性どうしの性的接触③麻薬、覚醒剤の使用、さらに④として①から③の該当者との性的接触は、エイズや肝炎のウイルスに感染する「危険性が高い行為」だから、献血を断っている。今回、HIV感染した血液を献血した男性は②に当てはまる。
この問題が明らかになったのは11月26日。この日夜放送のNHK「ニュース7」も当然報道した。しかし、2月の献血の約2週間前に、「感染のリスクのある性的行為をしていた」と説明するだけで、それが男性同士の性行為だったことは明言しなかった。
◆TBSは「刑罰」言及
一方、TBSの夕方の報道番組「Nスタ」(27日放送)は、問題の男性について「男性同士で性的接触があった」と説明するとともに、オーストラリアやシンガポールでは献血前に虚偽の報告を行うと刑事罰が科せられる場合もある、と紹介していた。
日本では毎年、献血から100件近くのHIV感染が見つかる。このことから、虚偽申告に厳しく対応する国を紹介したのは、感染者の献血を防ぐため、日本でも虚偽申告に対する罰則も必要だと訴えるのかと思いきや、そうではなく、「輸血の安全性は(献血する人)自身がまず責任を持つべきではないか」という専門家のコメントを紹介してお茶を濁す始末。そんなことは素人でも言える内容で、HIV検査代わりに献血を利用する不届き者がいるから、輸血でHIV感染してしまうという深刻な事態が発生してしまうのではないか。ニュース7もNスタも前述した①から④に該当する人間はHIV感染のリスクが高いから「献血してはいけない」とはっきり言うべきなのである。
11月29日放送のNHK「ニュースウォッチ9」は、最近保健所でHIV検査を受ける人が少なくなっている問題を取り上げた。メディアが報道する機会が減って、エイズに対する国民の関心が薄れたことが一因と思われるが、新たな感染者は毎年1000人近くに達し、エイズの危険度は増している。
HIV検査を受ける人が減って懸念されるのは感染を知らない“隠れた感染者”が増え、それがさらなる感染につながることだ。Nスタは「一部では(保健所の)検査で性的な指向などプライベートなことを聞かれた」との相談を寄せられたというエイズ患者支援団体関係者の話を紹介していた。つまり、同性愛者であるかなどを質問されるから、保健所での検査が受けにくく、それが隠れた感染者を増やしているということを言いたかったようだが、これも妙な話だ。感染リスクが高い行為を行っているかどうかは、HIV検査では重要な質問のはずで、その質問を避けることは過剰な配慮だろう。
◆「やるな」と明言せよ
一方、ニュースウォッチ9は、女性アナウンサーが「治療は大きく進歩しています。エイズの検査は全国の保健所で無料で、そして匿名で受けることができます」と、検査を受けることを呼びかけていた。検査が重要なことは言うまでもないこと。しかし、公共放送であるNHKの責務はそこにとどまることなく、HIV感染のリスク行為が何かを視聴者に知らせ、その行為を行ってはいけない、とはっきり指摘することだ。
(森田清策)