希望の党に矛先を向け左派勢力への肩入れ続ける朝日のご都合主義

◆メディアの世論操作

 総選挙が公示された。投票日までどんな展開を見せるのか、先の読みにくい今選挙だ。そんなとき、メディアはラベリング(レッテル貼り)などで世論操作をやり、有権者を巧妙に誘導しようとする。

 細川連立政権が誕生した1993年にはテレビ朝日の椿貞良報道局長(当時)が「なんでもよいから反自民の連立政権を成立させる手助けになる報道をやろう」と、自民党幹部の映像を悪代官風に仕立て、反復して放映した。

 小泉政権の「郵政選挙」や民主党の「政権交代ええじゃないか」キャンペーンは記憶に新しい。昨秋の米大統領選では、米大手メディアがクリントン候補に好感を抱くあまり、トランプ批判の情報ばかりを集め、世論の底流を読み切れずトランプ勝利の予測を外した。

 日本の場合、朝日は露骨に特定陣営に肩入れしてきた。昨夏の参院選では公示日の社説タイトルが「戦略的投票でこたえよう」だった。「最も評価しない候補者や政党を勝たせないため、自分にとって最善でなくとも勝つ可能性のある次善の候補に投票することだ」とし、これを戦略的投票と呼び、野党への投票を促した(16年6月22日付)。

◆左派分離で共通基盤

 今回はどうか。解散を受けた先月26日付社説は「大義なき解散」と勇ましかったが、小池百合子都知事が新党を結成すると、「安倍政権の補完勢力になる可能性は本当にないのか」(同28日付)と疑い、民進党が希望の党に飲み込まれると、未練がましくこう言った。

 「民進党には、もう一つの道があったはずだ。ここ数年、地道に積み上げてきた野党共闘をさらに進め、共産党を含む他の野党との候補者調整を実現し、そこに新党も加えて、自公と1対1の対決構図をつくり上げる―」

 これこそ朝日が描いた構図だった。それが崩れたばかりか、希望の党は改憲賛成・安保法容認を合流組に飲ませた。それで朝日の怒りは頂点に達したようだ。

 3日付社説は「理念や政策を捨て去れば、それは『権力ゲーム』でしかない」とし、「民進党の崩壊は、ここ20年来、『政権交代可能な政治』をめざしてきた政治改革の歩みを振り出しに戻しかねない。その先にあるのは政党政治の危機」と断じた。

 だが、話はあべこべだ。国民にとって「共産党を含む」や民進党内の左派勢力の存在が政権交代をためらわせる大きな理由だった。国家権力の批判は上手だが、政権運営は稚拙。そのことを民主党政権で痛いほど味わった。

 それが今回、左派の分離だ。産経の保守論客、阿比留瑠偉氏(論説委員兼政治部編集委員)はこれで民進党の矛盾がすっきりしたとし、「前原さん、ありがとう」とまで言っている(5日付)。

 政権交代可能な政治を拒んできたのは、朝日を筆頭とする左派勢力だ。朝日は「理念や政策を捨て去れば」と言うけれど、その理念や政策は護憲、反安保法など共産イデオロギーに基づくものだ。

 これを捨て去ることで外交・安保の共通基盤が生まれ、政権交代可能な政治に一歩近づいた。むろん希望の党は未知数だが、先の都議選では少なくとも民進党が「受け皿」にならないことは実証済みだ。

◆選択肢は民共社のみ

 ところが朝日はこのことを言わない。不都合なことはさっさと忘れる。それが朝日の信条らしい。この社説が載った3日付の他紙(日経を除く)1面トップは、ラスベガスでの「米史上最多の犠牲者を出した銃撃事件」(米メディア)だったが、朝日のトップは立憲民主党の結成だ。

 朝日が昨年来、肩入れしてきた「共産党を含む」野党共闘が崩れ、「自民・公明」「希望・維新」「立憲民主・共産・社民」の三つどもえの対決構図となった今、朝日の選択肢は「立憲民主・共産・社民」しか残されていない。

 というわけで、朝日記事から戦略的投票がすっかり姿を消した。それとは対照的に希望の党に矛先を向け社説は「何めざすリセットか」(4日付)「浮かぶ自民党の近さ」(7日付)と立て続けに批判している。

 これで戦略的投票は左派勢力に肩入れする朝日のご都合主義だったことが浮き彫りになった。これにも「前原さん、ありがとう」と言うべきか。

(増 記代司)