「ツケノミクス」とアベノミクス批判に終始した毎日「日本の岐路」

◆選挙戦の構図明確に

 衆議院が解散され、選挙戦が事実上スタートした。かつて政権を奪取し、国政を進めた野党第1党、民進党(当時、民主党)の「希望の党」への合流、分党騒動もどうやら落ち着き、選挙戦の構図が次第に明確になってきた。

 解散からの1週間は「希望の党」代表となった小池百合子東京都知事の立ち回りの見事さと民進党の体たらくぶりが目立ったが、これから選挙の投開票日までは各党の積極的な政策論争を期待したい。

 新聞各紙は、衆院選に絡んだ社説を、テーマごとにシリーズ化して掲載するところもあり、力の入っているところを見せている。朝日「衆院選」、毎日「日本の岐路」などがそうだが、経済問題でも両紙の社説は安倍政権の批判に終始している。

 例えば、朝日9月27日付「衆院選/消費税、財政再建はどうした」と毎日10月2日付「日本の岐路/借金大国の経済政策/ツケノミクス合戦は困る」である。

 朝日「首相は3年前、『税こそ民主主義』という言い分で、消費増税の先送りを掲げて衆院を解散し、選挙に勝利した。同じフレーズで、今度は国民への給付の充実を訴える、財政再建を置き去りにし、将来世代への目配りを欠くなら、今回の提案も選挙での勝利が目当てと言うしかない」

 毎日の方は、「自ら最重視したデフレ脱却が、5年近くたつ今も展望できないのであれば、責任を取り退陣するか、間違いを認め政策の大転換をはかるか、いずれかを選択すべきだろう」と指摘し、「アベノミクスとは、何だったのか。将来世代へのしわ寄せと引き換えに、目先の状況の改善を演出する。いわば『ツケノミクス』が、その実像といってよい」という具合である。

◆考察や反省見られず

 特に毎日は、「景気が良い時に、増税など財政の健全化を進めておくべきところ、首相は2度も、消費増税を見送った。将来よりも目先を優先させたのだ」と増税見送りを批判。そして、それを国債購入という形で金融面から支える日銀を「政府のツケノミクスに乗った」と同罪視するのである。

 毎日の批判は、逆に言えば、増税を実施すれば財政健全化が進み、将来世代へのしわ寄せにならないということになるが、果たしてそうか。

 安倍首相は、毎日が言うように2度延期したが、その前の14年4月に消費税増税を一度実施している。アベノミクス2年目の年である。

 増税実施については、ほとんどの新聞が強く主張し支持したが、その結果はどうだったか。予想以上の経済低迷が続き、判定上、かろうじて景気後退とはならなかったが、デフレ脱却へ勢いづき始めていたアベノミクスは完全に勢いを失くし、低空をさまよい続ける状況である。2度の増税延期は、そうした教訓を踏まえての決断である。

 もし、毎日が求めるように増税を実施していたなら、低迷に追い打ちをかけ、景気後退に陥るのは必至であろう。所得税や法人税の税収は減少し、消費の落ち込みから消費税収も想定以下になる可能性は考えられる。デフレ脱却、財政健全化どころか、縮小均衡の悪循環である。

 14年4月の増税の際も、本紙は財政健全化を目指した1997年4月の増税、財政緊縮策実施後の状況を教訓に反対を表明したが、かなわなかった。

 それでも、安倍政権はその後の2度の延期で、7年連続の税収増を実現し、基礎的財政収支の赤字縮小も確実に進んだわけであるが、朝日、毎日の社説はこうした事実には一切触れない。

 しかも、自らが主張し支持した消費税増税が経済や財政健全化に及ぼした影響についての考察や反省も見られない。それこそ、そうした点について「どうした」、反省、無視は「困る」と言いたい。

◆全体への目配り指摘

 読売は2日付で、「主要な争点/将来不安に応える具体策示せ」との見出しの社説を掲載。この中で、「消費増税の是非も審判にかけられる」として、その凍結を訴えた小池氏に対し、社会保障改革案や財政健全化の見通しなどでより明確に説明する必要があろうとし、その際、「財政と景気、社会保障の全体に目配りした施策が求められる」と指摘したが、同感である。朝日、毎日には「景気への目配り」がない。

(床井明男)