自公VS希望に「共産など」加え三つ巴の構図作り出した朝日の思い入れ

◆玄人筋も先が読めず

 「政界は一寸先は闇」。この台詞(せりふ)で知られるのは故・川島正次郎氏だ。佐藤栄作政権下で自民党副総裁を長年務め、しばしば「政界の舞台回し」を演じた。それを今日的に言えば「小池劇場」。演出、主演ともに小池百合子都知事で、計算ずくなのか、成り行き任せなのか、政治の玄人筋も読めない。ここでも一寸先は闇。その先に何があるのか。

 民進党が小池氏の率いる「希望の党」への合流を図るというのだが、小池氏側は候補者を選別するとしている。それも憲法改正と安保法制に賛成する人だけを公認する「リベラル(左派)排除」だ。希望の党は「改革保守政党」を名乗るのだから当然とも言えるが、民進党は大揺れだ。

 衆院解散を報じる29日付各紙を見ると、「自公と希望 激突」(読売)、「自民VS希望 政権選択」(毎日)というように自公対希望の対決構図を描いている。衆院選は1人当選の小選挙区が柱だから、大半の選挙区でこの構図となる。

 ところが、朝日は違っていた。「安倍政治5年問う 自公VS希望VS共産など」と他紙にはない「共産などを加え、三つ巴の構図を描いているのだ。「など」とはいかにも締まりが悪い。2面には「共産・リベラル系 埋没懸念」とある。どうやら「など」はリベラル系を指すようだ。

◆政権選択に絡まない

 1面に佐古浩敏・政治部長の「『対抗軸』の姿は見えた」と題する署名記事があるから、どんな三つ巴の対抗軸かと思いきや、肝心の「共産など」の話が出てこない。「党勢低迷にあえぐ民進党は野党4党の共闘路線を放り出し、せかされるように多くがそこにのみ込まれそうだ」と歯切れが悪い。政治部長ですら三つ巴と認識していないのだ。

 いくつかの選挙区では共産リベラル系が当落ラインに絡み、議席獲得もあるだろう。だが、政権選択に直接、絡むことはない。関西を基盤とする維新の会も存在する。それを「自公VS希望VS共産など」とするのは、意図的に「共産など」を加えた、作り出された三つ巴の構図というほかない。「共産など」への思い入れの強さがうかがい知れる。

 その意図を松下秀雄・編集委員が吐露している。同日付の「『リベラル』結集の途中で 民進、事実上解党へ」と題する署名記事で、「党勢が衰え、新党に期待をつなぐ。21年前も同じだった」と民主党や旧社会党の挫折をひとしきり愚痴った後、こう言う。

 「この20年余り、政界の軸は明らかに、保守へ、右へと移っている。日本の経済的な地位が低下し、東アジアの緊張が増す中では、『強い日本を取り戻したい』『憲法を守るよりも安全が最優先だ』といった気分が広がりやすい。安倍晋三首相は、そんな時代状況にうまく乗っている。それに対抗するのが、もう一つの『改革保守』勢力でいいのか。リベラルな政治勢力の結集を求める人たちは確実にいる。その受け皿をなくすべきではない」

 これこそが「共産など」に入れ込む朝日の本音なのだろう。それで共産リベラル勢力の受け皿を無くさないために「自公VS希望」ではなく、そこに敢えて「共産など」を加えて三つ巴にした。恣意的な紙面作りだ。

◆左派にしがみ続ける

 松下氏(つまり朝日)は新党が挫折した理由を取り違えている。旧社会党は長く北朝鮮と誼(よしみ)を通じ、民主党は中国共産党と友党関係を結んできた。共産主義が終焉(しゅうえん)した冷戦後も党内にイデオロギー集団を抱え、国家の根幹たる安保・外交政策を揺るがしてきた。そんな政党に政権を託せない。それが挫折の真因だろう。

 わが国を取り巻く国際環境は厳しい。だから「強い日本を取り戻したい」「憲法を守るよりも安全が最優先だ」と考えるのは「気分」でなく現実への対応である。だからこそ政界の軸は保守へ、右へと移ってきた。安倍政権に対抗するのは「保守」勢力でなければならない所以(ゆえん)はそこにある。それを朝日は共産リベラル勢力にしがみ続けている。

 それにしても新聞部数で朝日が読売に次ぐ「第2党」の座にあるのは不思議な話だ。政界ではとっくに少数勢力なのに、マスコミ界では相変わらずオピニオンリーダーを装っている。わが国の病巣の一つと言ってよい。朝日に「前原氏」はいないのか。

(増 記代司)