軍備への努力伝えたスウェーデン報道も空しい朝日社説の危機感欠如
◆興味を引く現地取材
北朝鮮の核・ミサイル開発、中国軍の太平洋進出―、わが国を取り巻く安保環境は一段と厳しくなっている。
グアムへのミサイル発射の北の恫喝では島根、広島、高知などの上空を飛ぶことになるので、周辺9県でJアラート(全国瞬時警報システム)の情報伝達訓練が行われた。が、新聞の反応は鈍い。訓練を報道記事で伝えるだけで、核・ミサイル対策への論及がほとんどない。何とも平和ボケの感がする。
そんな折、朝日7日付の国際面「世界発2017」にヨーロッパ総局員の渡辺志帆記者の「スウェーデン軍備強化へ転換」と題するタイムリーなレポートが載った。
軍事非同盟を貫いて19世紀から他国と戦火を交えずにきたスウェーデンが、ロシアの脅威の高まりを受けて、軍備強化へと方針を一変。バルト海のリゾート地のゴットランド島に常備軍を再配備し、7年前に廃止した徴兵制を復活させ、北大西洋条約機構(NATO)の加盟論議も高まっているという。
中でも、記事にあるゴットランド島の現地取材が興味を引いた。島内にはシェルターが集合住宅や学校など島の至る所にあり、その数は約350に上る。
「80年代に建てられた教会の地下シェルターを見せてもらった。体重をかけてハンドルを回すと、厚さ10センチ以上の扉がきしみながら動いた。広さは50平方メートルほど。フィルターを備えた換気ダクトがあり、ミサイル攻撃などの際に人々が逃げ込めるようになっているという」と渡辺記者は綴(つづ)る。
◆同僚記者には他人事
軍事費を大幅に増額し、電源喪失や生活物資の供給が途絶えた緊急時に、各家庭で72時間持ちこたえる備えを呼び掛ける啓発運動も展開している。首都ストックホルムでのノーベル賞授賞式や福祉大国で知られるスウェーデンだが、平和を守るため軍備強化に並々ならぬ努力を払っていることがうかがい知れる。
翻って、わが国はどうか。徴兵制はむろん、シェルターはどこにもない。国民保護法はミサイル攻撃に対して直近の屋内施設への避難を促がすが、それに応じる国民の義務はない。防衛費を増やそうとすると、「軍国主義」のレッテルが貼られる。国会は安倍政権の追及には閉会中審査までやるが、安保論議には時間を割こうとしない。こんなふうにスウェーデンとは雲泥の差だ。
渡辺記者のレポートは朝日の同僚記者にどう読まれただろうか。少なくとも政治部記者や論説陣にとっては他人事だったようだ。小野寺五典防衛相が米軍基地のあるグアムが攻撃された場合、集団的自衛権を行使できる「存立危機事態」に当たり得るとの考えを示したことを11日付政治面は「『存立危機』拡大解釈懸念も」と噛(か)みついている。
記事は「専門家からは『拡大解釈』との懸念の声もあがる」と言うのだが、その専門家とは阪田雅裕・元内閣法制局長官のことだった。反安保法の護憲派で、しばしば朝日紙面に登場する、言ってみれば朝日の御用元官僚だ。政治部記者も阪田氏もグアムの人々が犠牲になる懸念にはまったく関心がないようだ。
◆筋違いの「軍事」批判
19日付社説は「日米2+2 外交の姿が見えない」と、ワシントンで開かれた日米の外務・防衛担当閣僚による安全保障協議委員会に噛みついている。協議では北朝鮮の核・ミサイル開発に対し、日米同盟の抑止力・対処力を強化して対応する方針で一致した。それが気に入らないらしい。
社説は「軍事の言葉が躍るばかりで、外交の姿が見えない」と言い、「懸念されるのは、発信されたメッセージの力点が軍事、とりわけ自衛隊の役割拡大に傾斜していたことだ」と批判する。筋違いもはなはだしい。
2プラス2は安全保障協議委員会という名が示すように、防衛すなわち軍事を論じる場だ。これまで日米ガイドライン(日米防衛協力のための指針)などが論議されてきた。だから軍事に傾斜しない方がどうかしている。
それにしても核兵器禁止とか戦争をなくせとか、空言ばかりで、肝心の核が使われかねない危機には知らんぷりだ。これではせっかくのスウェーデン・レポートも朝日社内で空しく響いていることだろう。
(増 記代司)