北のミサイル発射/中・露の事実上の国連決議破りを追及した産経

◆現実味を帯びる脅威

 北朝鮮が先月4日に続いて28日深夜に、中国国境近くの舞坪里から発射した大陸間弾道ミサイル(ICBМ)について、米国や韓国の国防・研究機関などの分析・評価がまとまってきた。通常より高い高度のロフテッド軌道で打ち上げられ、達した最高高度などから計算上の射程は1万キロにも届くことが推定されることから、米国の首都ワシントンに到達する可能性が言及されている。

 一方、専門家の多くは、このミサイルの弾頭部分の大気圏再突入技術がまだ未完成で、今回の再突入でも弾頭部分が高温条件に耐えられず途中で消滅した可能性を指摘している。

 このため、米国本土への攻撃能力にはまだ疑問符が付いているものの、その脅威は現実味を帯びてきた。「北朝鮮のミサイル技術の着実な進展は看過できないレベルに至っている」(毎日・社説7月30日)のである。

 国連決議に違反して繰り返される北朝鮮の暴走に対して、直接の脅威にさらされている日本や韓国と米国は連携をさらに密にして国連安全保障理事会の制裁決議採択に向けて動き出している。また米軍は今月に入り、韓国軍と弾道ミサイル発射訓練を行う一方、グアムのB1B戦略爆撃機が航空自衛隊機や韓国軍機とそれぞれ共同訓練を行って3カ国の連携を確認。さらに米軍は、地上配備型迎撃システム「高高度防衛ミサイル(THAAD)」の迎撃実験を重ね、その防衛能力の高さを誇示して北のミサイルに対する防衛の決意を示した。

◆中露への言及ない毎

 こうした中で目下の急務は、最後の手段である軍事的選択肢を回避して、何とか北朝鮮の暴走を食い止めることだ。そのため求められるのは米国代表が指摘するように、国連安保理による通り一遍の決議採択の繰り返しでは意味を持たないことは明らかだ。決議による制裁強化の実施をしっかり追い、その効果を高めるためにはどこをどうしなければならないのか、それを詰めていくことが求められる。

 その点から、各紙社論をチェックしていく。

 まさに噴飯ものの社説を掲載したのは毎日である。北ミサイル問題では、北朝鮮の暴走に対する国連決議採択の求めに度重なる抵抗をしてきたのは、中国とロシアである。その上、中国は国連の制裁決議にもかかわらず、依然として北朝鮮の対外貿易の9割を占める。まさに「制裁と支援を同時に行うのが矛盾であることは、誰の目にも明らかだ」(産経・主張2日)と非難されて当然の元凶である。

 だが、毎日には、そうした中露の問題への言及が皆無。その上に、ミサイル発射が稲田前防衛相ら防衛省トップ級3人がそろって辞任した日の深夜だったことから「不適切な防衛相人事に起因する防衛省・自衛隊の混乱とミサイル発射が重なったことを、安倍晋三首相は深刻に受け止めるべきだ」と結論付けた。加計問題では「何でも安倍が悪い」批判に狂奔した朝日だったが、まるでその“朝日病”に感染したかのようである。

 本題に戻ろう。「北朝鮮に反対姿勢を示せない責任は、中国とロシアにある」と指摘する朝日(7月30日)は、中国の今年上半期の北朝鮮への輸出が前年比で30%近く増加したことで「中国側は禁輸リスト外の貿易と主張するが、統計上は近年、輸出がないとされる石油を、実際にはどの程度供給しているのかも明らかにすべき」と批判した。

◆石油禁輸を迫る日経

 日経(1日)は「中国が経済制裁を強化し、着実に履行することが何より重要だ。とくに正恩体制に深刻な打撃を与える石油禁輸に踏み切るべき」だと具体的に迫った。一方「追加制裁への反対は、北朝鮮の暴走を放置することを意味する」とした読売(同)が、中国に「国際社会の不信の高まりを重く受け止め、安保理常任理事国の責任を果たす」ように求めたのも評価されていい。

 だが、中露の事実上の国連決議破りを指摘し、問題にもっとも厳しく迫ったのは産経だ。北朝鮮産の鉄鉱石輸入を大幅に増やした中国。貨客船「万景峰号」の定期航路を開き、北朝鮮の外貨稼ぎに手を貸しているロシア。両国に対し「国連安全保障理事会は中露を含め、対北制裁決議を重ねてきた。/問題は、その一方で中露が北朝鮮を経済的に支え、平然としていること」だと、その矛盾を鋭く批判したのだ。まさに同感である。

(堀本和博)