日本は中国にとっくに負けている分析するダイヤモンドの独善

◆ITで後れ取る日本

 東京の上野動物園で6月12日、29年ぶりにジャイアントパンダが生まれた。このところ、何かとギクシャクする日中関係もこの日だけは違ったようで、菅義偉官房長官も「日本全体が明るくなるニュース。そのことが日中友好の一つの大きな証であることも大事」とコメント。一方、中国外務省の陸慷報道官も「良いニュース。パンダは中国の有効の使者である」と発言し、友好改善への期待をにじませた。尖閣諸島をはじめとする日本の領海・領空侵犯を繰り返す中国に対して神経をとがらす日本。国内総生産(GDP)世界2位の強国としてアジアで覇権を握りたい中国。おのずと両国の言動にとげが生まれるが、この日ばかりは“パンダ様様”といった感じだ。

 ところで、パンダが生まれたからというわけではないだろうが、週刊ダイヤモンド(7月15日号)が最近の中国経済の動向について特集を組んだ。大見出しには「中国に勝つ」と大層な言葉が載る。誰が中国に勝つかと言えば、それは日本のことだという。別に日本人の多くは「中国に負けた」とは思ってはいないが、ダイヤモンドは違うというのである。「日本はとっくに中国に負けていた!? 中国にはキャッシュレス社会が到来し、日本よりもよほど便利な生活が送れるようになった。…中国の産業競争力はさらに高まっている」と同誌は綴り、さらに「中国とのつながりを模索し、日本独自の『勝ちパターン』を模索するときに来ている」と結論付ける。

 ダイヤモンドはまず、日本人が誤解している五つのポイントを挙げる。すなわち中国は、①いまだに世界有数の高い成長率を維持している②従業員の昇給率は低い③このところ不動産市場は落ち着きを見せている④医薬品、化粧品などの分野での訪日中国人観光客の購買率は上昇している⑤実利主義の中国人は反日には無関心-といった事例を挙げて、客観的に中国を見ることの必要性を説く。確かに、感情的な思いを持って物事を見れば正しい分析ができないのは事実で、こと中国に対しては冷静な判断が求められる。

 ただ、同誌が特集のパート2で取り上げた中国のキャッシュレス社会をもって「ITやスマホに関しては、完全に日本が後進国である。日本はとっくに中国に負けていた」という論調は納得がいかない。中国ではスマホなどを使った決済が一般的になっており、キャッシュレス社会が到来して高い生活水準を達成している。そういう点で日本は「完敗している」とダイヤモンドは結論付けるが、キャッスレス社会の到来で「中国が勝ち」というのは独善的であろう。

◆AIIB参加を促す

 もう一つ、特集で疑問を抱いたのが、中国の「一帯一路」構想への論調である。

 ダイヤモンドは「ユーラシア大陸を横断する中国~欧州間の物流のボリュームが大きくなっていく。そうなると日本を含めた東アジアの陸上交通のハブは中国に握られてしまうことになる。一帯一路でいうと、遠いシルクロードの出来事と思われがちだが、それは誤りだ」と指摘、さらに2015年12月に中国主導で発足したアジアインフラ投資銀行(AIIB)についても、「日本が態度を決めかねている隙に、米トランプ政権が電撃的にAIIBの参加を決めるなんてこともあり得ないとも限らない。…日本が中国と米国を天秤にかけているうちに、日本がハシゴを外される―。一帯一路の無関心が悲劇を生む事態だけは避けなければならない」と述べ、日本のAIIBへの早期の参加を促すような主張をする。

◆経営の透明性に疑問

 確かに、「一帯一路」プロジェクトを資金面で支えるAIIBの現状を見れば、加盟国・地域は80に増え、日本と米国が主導するアジア開発銀行(ADB、現在67カ国・地域で構成)を超えていることから、焦りたくなるのも分かるが、しかし、ここはやはり思案のしどころであろう。何よりもAIIBには経営の透明性に疑問が残るのである。AIIBへの中国の出資率は35%を超え、事実上の拒否権を持ち、本部には各国代表の理事も置かず、総裁は中国人。しかも共産党一党独裁国家。人権活動家でノーベル平和賞受賞者の劉暁波氏が中国政府を批判したことで有罪となり、服役中に死去したことを考えればAIIBに加盟するわけにはいかない。

 折しも週刊東洋経済7月15日号で、京都府立大学文学部の岡本隆司教授が「シルクロードの史実」と題して次のように語る。「シルクロードについて言えば、当時、シルクは中国の特産品だったが、中国と欧州の間にある中央アジアこそが往年の世界文明の中心であって、居住・活躍していたのも中国人・漢人ではなかった」と語る。感情的・雰囲気的な言葉や標語に捉われることなく、今こそ史実に基づき冷静かつ客観的な視点が求められる。

(湯朝 肇)