深海探究のロマンから海の魅力を啓発される東京の「海の日」の社説

 夏本番に入った暑い日には、つい口ずさみたくなる懐かしの童謡や文部省唱歌がある。♪われは海の子 白浪の…。あるいは♪海はひろいな大きいな 月がのぼるし…。

 この17日は祝日法が定める22回目の「海の日」であった。<海の恩恵に感謝するとともに、海洋国日本の繁栄を願う>日で、平成8年の施行当初は7月20日だったが、その後の法改正で今は7月の第3月曜日になっている。

◆環境汚染拡大に警鐘

 その海が冒頭の歌詞のように、子供に大きな心や夢を育てる馴染(なじ)み深いところから遠ざかっている。海で今、何が起きているのか。海の日に社論を掲げて問題提起したのは小紙、産経、毎日などである。

 「海汚すプラスチックごみ/国の危機感と対応は鈍い」のタイトルで環境汚染への取り組みを訴えた毎日は、微細なプラスチックごみによる汚染の広がりに警鐘を鳴らし、その防止を啓蒙(けいもう)した。捨てられたレジ袋やペットボトル、化粧品やメラミン樹脂製スポンジなどに使われる微粒子のマイクロビーズなどのプラスチックごみが、有害物質のポリ塩化ビフェニール(PCB)などを吸着。これをプランクトンや魚が食べると、食物連鎖で「生態系を壊し、人の健康を脅かす恐れがある」ことを危惧した。

 この問題は主要7カ国(G7)首脳会議でも取り上げられ、2015年のドイツG7では「世界的な課題だ」と警告を発し、今年のG7(イタリア)では「『地球規模の脅威』と訴え、国際的な対応を急ぐよう求め」たというのだ。欧米ではレジ袋規制が進み、米国ではマイクロビーズも15年に成立した規制法で製造禁止に、販売も来年6月までとなった。ところが、日本は自主規制頼みで「消費者はその問題点もあまり認識していない。/四方を海に囲まれ、その恵みを享受しているのに、危機感に乏しく主導的な姿勢に欠けるのが実情だ」と対策の遅れを指摘し、国を挙げての取り組みを急ぐよう求めた。

◆急がれる防衛力強化

 毎日が長期的視点で、地球規模の環境汚染の問題をアプローチしたことは意義深い。これに対し、小紙と産経は目の前にある安保問題から言及した。「今、日本を取り巻くその海が近隣諸国の激しい脅威にさらされている。法整備を含めた防衛力強化は喫緊の要事」だと産経は論じ、小紙は「現在のわが国の海をめぐる状況は、恩恵を当然のものと考えることを許さない危機的なもの」だとする状況認識を示した。その上で小紙は具体的に①乱獲による水産資源の枯渇など海洋環境の悪化、と②尖閣諸島周辺での中国公船の領海侵犯の頻発などに見る、わが国の海洋権益が侵されつつある深刻な現状――を訴えた。そして「守り手のない海は奪われていく、そういう時代になりつつあることを銘記すべき」で「日本の海を守り抜く方策を再構築する必要がある」ことを強調したが、まさに同感である。

 日本の海が脅威にさらされているのに、そのことへの危機感が薄いことも問題である。日本財団の最近の世論調査を基に、若者の海への関心が低いことの問題に言及した産経は「次代を担うべき若人が、海の安全保障や資源開発、環境保護、生態系研究など総合的を海洋学習を通じて海への関心を深め、海の未来に想像を及ぼせる施策」の必要を説く。総論としてはいいが、その施策がどんなことなのかにまで具体的に踏み込んで示してほしかった。その意味で、いささか作文の感が拭えず、物足りないのである。

 小紙は「今求められているのが、海洋教育の充実」だと主張し、例えば「初等中等教育では、地理の授業などで、わが国が世界第6位の面積のEEZ(排他的経済水域)を持つことを地図で示してインプットすべき」ことなどを提言した。

◆最後のフロンティア

 これらに対して「闇の中に広がる深海は人類にとって最後の秘境、地球最後のフロンティア」だと深海探究のロマンから海の魅力について啓発されるのが東京新聞の「最後の秘境を見たい/海の日に考える」である。足元に広がる深海がほとんど未知の世界である例に、はるか月面に米国アポロ宇宙船の計12人が足跡を残しているのに、水面下1万メートル余のマリアナ海溝最深部まで潜った人間はまだ3人しかいないことを挙げる。日本も先端でしのぎを削る金、銀、レアメタルなどが沈殿してできる熱水鉱床などの海底資源の調査、「地震対策にも死活的影響を及ぼ」す深海探査などの意義とロマンを分かりやすく解説している。東京の報道記事は「赤旗」と見間違うことも少なくないが、社説は時に時宜にかなう秀逸なものを目にすることがある。

(堀本和博)