医療費抑制で「モラル」に深く踏み込まなかったBS「プライムニュース」

◆大き過ぎる地域格差

 政府が経済財政運営と改革の基本方針、いわゆる「骨太の方針」を閣議決定した9日、BSフジ夜の時事討論番組「プライムニュース」は、「社会保障政策から医療 骨太の方針」と題して、医療費の抑制について論議した。出演者は前厚生労働大臣で、自民党政調会長代理の田村憲久、元厚労副大臣で民進党政調会長代理の大塚耕平らだ。

 逼迫(ひっぱく)する財政問題の中で、医療費抑制が喫緊の課題となっていることを示すには「2025年問題」を説明するのが手っ取り早い。人口の多い「団塊の世代」が全て後期高齢者(75歳以上)になるのが25年。わが国の国民医療費はすでに年間40兆円を突破しているが、この年にはさらに膨れ上がり、54兆円に達するとの試算がある。医療・介護などの社会保障制度の崩壊が現実味を帯びているのだ。

 このため、閣議決定された「骨太の方針」には、薬価制度の改革、介護ロボット導入の促進など、医療・介護費を抑制するための方策が並んだ。番組はそれを受けてのもので、時宜にかなっていた。

 内容について言えば、医療費の地域格差の大きさには驚かされた視聴者が多かったのではないか。例えば、後期高齢者1人当たりの医療費の全国平均が91万7000円なのに対して、最も高い福岡県は116万円。一方、最も低い新潟県が74万円と、1・6倍近くになっている。この現状を目の当たりにすると、良識的な国民なら医療費の適正化の必要性を実感するはずだ。この一事からも、いわゆる「見える化」の必要性は、国の制度改革だけでなく、国民の意識変革にも当てはまることが分かる。そこでは、テレビは大きな役割を果たすことができる。

◆国民に自覚促す必要

 ただ番組で残念だったのは、国民皆保険制度に甘えた利用者と利益優先主義に陥っているサービス提供者のモラルの問題で突っ込んだ議論が行われなかったことだ。議論のテーマを①医療費の適正化②地域医療構想の実現③薬価制度の抜本改革④健康増進・予防の推進に分けたのはいいが、全体的に概略説明だけで、議論が上滑りで終わった印象は否めなかった。四つの課題の促進で鍵となるのは、国民のモラルであろう。

 それでも、最後に、少しだけ議論不足を補ったのが出演者だった。局側が「医療費の適正化を進めるために」というテーマで、各出演者に提言を求めたところ、田村は「健康管理と重症化予防」を挙げた。

 その上で、「医療費の適正化で、ベッドの数を減らすだとか、薬価を下げるだとか、いろいろありますが、必要な部分はやりますけど、それで医療(制度)が壊れてしまうと、大変なことになるので、まずは個人個人に健康を守っていただくことによって、本人も幸せですし、医療費の伸びを抑えられる。これが一番」と、国民に自覚を促した。

 また、田村の発言をフォローする形で、大塚は「データ(D)・適切(R)・モラル(M)」を掲げた。「ちゃんとデータに基づいて、医療を分析する必要がある。適格で、適切な治療行為や薬を使ってもらう。つまり、過剰にならないようにした方がいい。最後のモラルは、医者のモラル、患者さんのモラルもあるし、メーカーのモラルもあるし、みんなが気を付けないと、リーズナブルな価格という意味での適正化はできない」と訴えた。いずれも重要な指摘で、本当はこの点をもっと踏み込んで議論してほしかった。

◆不正確な言葉の定義

 また、ナレーションとして流れる背景説明では、言葉の定義が不正確なことも気になった。例えば、「団塊の世代が75歳以上になり、医療などの社会保障費が急増する『超高齢化社会』が訪れる」と説明したが、ここには二つの間違いがある。

 国際機関の定義では、「超高齢社会」は「65歳以上」が総人口に占める割合が21%を超えた社会のこと。ところが、わが国の高齢化率は2010年には21%を突破し、15年は26・7%に達している。つまり、これから超高齢社会を迎えるのではなく、既に突入し、しかもかなりたっているのだ。25年にはさらに高齢化率が高まるから、「ウルトラ超高齢社会が訪れる」と説明し、警鐘を鳴らすべきなのである。そんなところにも、2025年問題に対する番組の認識が甘さが表れていた。(敬称略)

(森田清策)