パリ協定/米国離脱でのさばる中国を懸念し原発活用示唆する産経

◆各紙がほぼ総スカン

 朝日(3日付、以下小紙を除き同)が「『米国第一』の身勝手な振る舞いに、怒りを禁じ得ない」と怒れば、産経は「米国が地球環境問題で示す2度目の不誠実である。身勝手に過ぎる振る舞いだ」となじる。以下、「人類の未来に対する背信行為と言うしかない」(毎日)、「一方的に離脱するのは無責任のそしりを免れない」(小紙4日付)と続き、読売が「地球温暖化対策をリードすべき責任を投げ出す軽挙」だと断じ、トランプ氏に「今回の愚かな判断が米国の信頼を失墜させ、国際的な指導力を低下させる現実を認識せ」よとまで批判した。各紙の論調はほぼ総スカンである。

 環太平洋連携協定(TPP)からの離脱に続いて、米国のトランプ大統領はこの1日に地球温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」からの離脱を表明した。

 パリ協定は平成32(2020)年以降の温暖化対策をまとめた国際的な枠組みで、27年12月にパリで開いた第21回国連気候変動枠組み条約締約国会議(CОP21)で採択し、翌28年11月に発効した。産業革命前からの地球の気温上昇を2度未満に抑えるため、今世紀後半に世界全体の温暖化ガス(CО2)の排出量を森林や海による吸収分以下にする「実質ゼロ」を目指すというもの。

 超長期の地球の将来を見据え長年の交渉を積み重ねて合意したパリ協定は、先進国だけに温暖化ガス削減を義務付け実効性を失った現行の京都議定書(平成9年採択)の反省から、法的拘束力を外し目標や対策を各国に委ねて、途上国を含む全ての国などに参加を促した。その結果、先進国と新興・途上国が利害や対立を乗り越え世界の200近い国・地域が参加して、温暖化ガス削減に取り組むことになり実効性に期待が掛かるのである。非参加国はシリアとニカラグアだけで、これに米国が倣(なら)い世界に背を向けようというのだから「愚かな判断」と言うほかない。

◆米国の指導力が低下

 各紙論調が指摘する問題の一つは「途上国は支援と引き換えにパリ協定に合意した経緯があり、米国の方針転換を受けて温暖化ガスの削減努力をやめる国が出かねない」ことで「これを食い止めなければならない」(日経)ことである。

 また読売などが指摘するように、米国の信頼失墜と国際的指導力が低下する。それは自業自得だとしても、日本などにも跳ね返ってくる問題がある。これを好機として中国がのさばってくることへの懸念で、南・東シナ海などで高圧的な膨張策を強行する中国のことだ。そのあたりを社説ではないが日経(3日付1面解説)記事が「パリ協定は米中協調の象徴だった。(中略)米がその役割を自ら捨て、排出量首位の中国が国際社会を主導するかのように振る舞う隙が生じている」と指摘する。

 産経はさらに具体的に切り込んだ主張を展開した。パリ協定離脱でも温暖化ガスの発生が少ないシェールガスの利用で、米国の排出量は減少が見込まれる。他方、日本はパリ協定で約束の26%削減の達成は厳しいとの見通しから「(米国が抜けた後)排出大国・中国の発言力がおのずと増そう。このままでは、日本が中国から教育的指導を受けることにもなりかねない」ことを懸念。日本の約束達成が難しいのは「CО2を出さない原発の再稼働が進まないためだ」と指摘し、その活用を示唆する主張に留意しなければならない。「かけがえのない地球を守る美しい理想論だけで解決できる問題ではない」からである。

◆新技術が雇用を創出

 もう一つ、米国のパリ協定離脱表明を受けて、今後どうすればいいのか。

 「繰り返しトランプ氏に再考を促して(いく)」(朝日)、「トランプ氏に協定残留を働きかけ(る)」(毎日)一方で、30年までに決める予定のパリ協定の詳細ルールを「協定が骨抜きにならないよう、排出削減の取り組みを着実に進める」(読売)ことが求められることは各紙とも言及する。

 そこで、トランプ氏への説得だが、環境規制が雇用を奪い、経済を縮小させるとの主張に、日経は経済重視の新聞らしい主張を掲げた。「温暖化ガスの排出を減らす革新的な製造・物流技術や新エネ技術は新たな産業や雇用の創出につながる。米経済の重要な担い手であるIT(情報技術)やエネルギー業界はそれに気付き、パリ協定からの離脱に異を唱えてきた」として、各国にこうした動きを後押しして実績を示してアプローチしていくことを呼び掛けたのだ。妥当な提言である。

(堀本和博)