テロ等準備罪で毎日にはない視点で野党の主張を批判した「風知草」

◆10年続く名物コラム

 風知草。カゼシリグサ、あるいはフウチソウと読む。本州の崖や尾根によく見られる多年草で、正式名は「裏葉草(ウラハグサ)」。葉の裏側に光沢があって美しく、花名になった。が、風になびく姿に風情があるので、風知草の呼び名が広がったようだ。

 そんな風知草を冠した政治コラムが毎日月曜日付に毎週、載る。筆者は山田孝男・特別編集委員(元政治部長)。タイトルのいわれは知らないが、風見鶏のひねりか、政治の裏側に光を当て真実を探ろうというところか。10年前から続く名物コラムだ。

 ただ一時期、憑(つ)かれたように反原発論を繰り広げ、いささか食傷気味だった。それが最近、毎日本紙とは違った視点を提供していて、新たな「光」を感じさせる。

 どこが違うのかと言うと、共謀罪がそうだ。今国会で焦点のテロ等準備罪(組織犯罪処罰法改正案=毎日は共謀罪と呼称)について、毎日は戦前の治安維持法を持ち出し、「犯罪対象拡大の歴史に学べ」(2月2日付夕刊「特集ワイド」)などと反対キャンペーンを張っている。

 ところが、山田氏は5月1日付「風知草」で、「『治安維持法』時代(1925~45年)の大日本帝国憲法には日本国憲法のような人権規定はなかった。警察は裁判所のチェックを受けず、法令で容疑者を逮捕できた」とし、まるで同僚記者を諭すようにこう述べている。

 「今は違う。憲法は思想及び良心の自由(19条)、集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由(21条)を保障している。現行犯は別だが、裁判所が出す令状によらなければ逮捕されない(33条)。万一、逮捕・起訴されても迅速な公開裁判を受ける権利がある(37条)。不当な捜査は速やかに是正されるはずである」

◆「誤読か曲解」と指摘

 その通りだ。今日の共謀罪と戦前の治安維持法を同列視するのは、どだい無理な話だ。山田氏によれば、「共謀罪」新設の背景は2000年に国連で採択された国際組織犯罪防止条約で、締結には組織的犯罪集団を罰する「共謀罪」か「参加罪」が必要とされた。

 政府は「共謀罪」を盛り込んだ組織犯罪処罰法改正案を用意した。「参加罪」を選ばなかったのは、戦前の「治安維持法」が「参加罪」だったからで、参加を理由に罰すれば憲法(21条=結社の自由)違反になるからだという。

 野党が「新法がなくても日本は条約を締結できる。国連は厳格な対応を求めていない」と主張している点については、国連の立法ガイド(同条約に関する国内法整備のための手引書)を示し、「(同ガイドの)断片の誤読か曲解である」と断じている。こんな指摘は毎日本紙には全くない。

 共謀罪をめぐっては国連のケナタッチ特別報告者の書簡が物議をかもしている。5月18日、ケナタッチ氏が同法案にある「計画」や「準備行為」の定義が曖昧で、恣意的に適用される可能性があるとの書簡を安倍首相に送り、政府と論戦中だ。

◆書簡に疑問を呈する

 これに対しても山田氏は「国連特別報告者って?」と疑問を呈する(5月29日付「風知草」)。書簡の公表時期が衆院法務委員会で「共謀罪」法案が採決される前日で、ケナタッチ氏の主張が「日本の野党の論理構成とよく似ていた」とした上で、その経緯をこう解説する。

 「22日、官房長官が『書簡は不適切』と批判。すると23日、特別報告者がたちまち反論、『批判に中身がない』とやり返した。反論書は23日朝、民進党の法務部門会議で披露された。官邸にも外務省にも届かぬうちに――」

 だから「国連の特別報告者は、民進党や日本の人権団体と連携していると見るのが自然だろう。報告者への情報提供を誇示する日本の人権団体のサイトもある」とし、国連側に情報を提供したのは海渡雄一弁護士と明かしている。海渡雄一氏は社民党の福島瑞穂氏の夫で、名うての左翼弁護士だ。なるほど「国連特別報告者って?」と言いたくなるはずだ。これも毎日本紙の方は触れないから不思議だ。山田氏の肩書にある「特別編集委員って?」と聞きたくなる。

(増 記代司)