「安倍一強」下の政局で“長期政権の緩み”追及に出番の多い各誌

◆前次官が「爆弾告白」

 ここのところ、週刊誌は話題盛況である。「加計学園」「総理のご意向」「前川前文科事務次官」「出会い系バー」などのキーワードが躍り、それらを追っていくといずれも「首相官邸」「安倍晋三首相」に行き着く。「安倍一強」と言われている政局で、“長期政権の緩み”が出てきたとも取れるし、“反対勢力”が搦(から)め手で攻撃を仕掛けているようにも見える。いずれにせよ、週刊誌の出番は多い。

 3月13日付の本欄で取り上げたが、週刊新潮(3月16日号)が森友学園騒動に絡めて「首相に直結する大疑獄が飛び出しそうだ」と「加計学園の獣医学部新設」を既に報じていた。この時は“中吊(なかづ)り広告を見ている”さすがの週刊文春も出し抜かれたようである。何しろ、記事中で触れられていただけで、中吊りの見出しにはなっていなかったから。

 それを挽回しようとしたのか、週刊文春は6月8日号で前川喜平前文部科学事務次官に「爆弾告白」をさせた。四国に獣医学部を新設する、もっと言えば、加計学園の獣医大学を新設するという方針に文科省は従えとの「上からの圧力」があった、という話だ。それによって「文科行政が歪められた」と前川氏は主張しているのである。

◆頑迷な文科省に風穴

 獣医学部が一つもない四国に獣医学部を新設する。文科省はなかなか許可を出さない。そのために国家戦略特区に指定して設置を可能にした。ところが、その学校法人の理事長が安倍首相の「40年来の友人」だった。「行政が歪められた」のではないか。いや「総理のご意向」そのものだった。まとめるとこうなる。

 「獣医師は足りている」という判断があり、獣医学部の新設は52年間なかったという。しかし、昨今のペットブームで獣医師の需要は増え、鳥インフルエンザなど感染症の水際対策で自治体やJA、経済連などに所属する獣医師は引っ張りだこだ。いつ「獣医師が足りない」という事態になるかも分からない。仮に獣医学部数が足りているとしても、「四国に一つもない」という偏重は改善されるべきことである。

 見方を変えれば、「頑迷な文科省に内閣府が『国家戦略特区』制度を使って風穴を開けた」“成功例”と言ってもいいものだ。

 さて、文春はさらに前川氏のスキャンダルについても“援護射撃”を行った。前川氏が「出会い系バー」に出入りしていたことだ。これも週刊新潮が先に採り上げていたが、それを挽回すべく「相手女性」に直接話を聞いた。こうした“返し”は週刊誌としては大いにやり合ってもらいたい。

 女性は前川氏と「肉体関係」はなく、「小遣いももらっていない」と証言した。それでいいのか。「実態調査」にしては回数が多くないか。教育行政のトップがなぜ夜な夜な“出会い”を求めて夜の街に通っていたのか。妻でもない若い女性との逢瀬を繰り返していたのか。それをこそ週刊誌は追及すべきだろう。

◆総辞職の気配は皆無

 週刊新潮(6月8日号)は「加計学園」と「前川問題」を別の角度でまとめた。「『安倍一強』で日本が失ったもの」という特集だ。記事は菅義偉官房長官の力が増しており、今や「霞ヶ関の絶対王者」になっていると伝えている。特に「官僚人事を政治主導で決める」内閣人事局を仕切っているのが菅氏だから、「官僚は皆、菅さんには逆らえません」(全国紙の政治部デスク)というほどだ。

 獣医学部新設で内閣府は文科省の他に農水省からも「大顰蹙(ひんしゅく)」を買い「敵に回してしまった」。同誌は内閣府の「信用は、霞ヶ関村ではとっくに失われているという」として、「安倍一強」で失ったのは、内閣府の信用であり、官邸の信用であり、菅長官、安倍首相の信用であると印象付けている。同誌の伝でいけば、これだけ信用失墜した安倍内閣はすぐにでも総辞職しなければならないが、「多弱」野党の存在に助けられてなのか、その気配はない。その理由も追究すべきテーマの一つだと思うが。

(岩崎 哲)