英国テロを扱いながら「テロ等準備罪」法案に反対一辺倒のサンモニ

◆元活動家が過剰反応

 北朝鮮のミサイル発射を盛んに放送しながら、防衛に不可欠な自衛隊を憲法に明記する9条改正には反対の声を多く取り上げる。「テロ等準備罪」を新設する組織犯罪処罰法改正案にも凄惨(せいさん)なテロ事件を報道しながら反対の声を多く取り上げる――一部の報道番組には倒錯した印象を受ける。

 5月28日放送のTBS「サンデーモーニング」もその例に漏れない。放送時間前半で英国マンチェスターで22日に起きた自爆テロを扱いながら、後半の「風をよむ」というコーナーで「テロ等準備罪」に「“共謀罪”の行方」と題して批判したが、肝心のテロ対策の効果には全く言及しなかった。

 内容は、国連特別報告者のジョセフ・ケナタッチ氏の法案を批判する18日付公開書簡、デモ参加者の「共謀罪」反対の声、反対派が“「共謀罪」の先取り”として注目する「大垣警察市民監視違憲訴訟」などだ。同訴訟は、風力発電建設に反対する住民運動に「過激なメンバー」が入る恐れがあると、警察が個人情報を企業に知らせたことが発覚して問題になったものだ。

 が、法案は組織犯罪集団について「結合関係の基礎としての共同の目的」を277の犯罪を実行するものと規定しており、正当な運動や一般人は該当しない。正当な住民運動は無縁で「テロ等準備罪」と結び付けるのは過剰反応に思える。かつて日本での暴力革命を試みた経緯から、破壊活動防止法で調査対象団体となった日本共産党や極左集団の流れを汲(く)むさまざまな反対運動の当事者が自意識過剰になっているのだろう。

◆偏った出演メンバー

 「風をよむ」の冒頭では、ケナタッチ氏の書簡から「法律の適用範囲が広いためプライバシーに関する権利と表現の自由が過度に制限される可能性がある」などを引用。これに政府が「一方的に出され、内容も不適切」(22日、菅義偉官房長官)と抗議したことに、谷口真由美氏(大阪国際大学准教授)が北朝鮮の人権問題(日本人拉致)に取り組んだ国連特別報告者(マルズキ・ダルスマン氏)には春に叙勲したことを引き合いに出し、「二枚舌」と政府を批判した。

 グレーテス国連事務総長はタオルミナ・サミットの際、安倍首相に「人権理事会の特別報告者は、国連とは別の個人の資格」(外務省HP)だと述べているが、当の国連から妙な報告や勧告が出ることもある。一例が「沖縄先住民」勧告だ。国家間や国内の政治的争点が非政府組織(NGO)の運動団体によって持ち込まれ、プロパガンダ合戦の場になっている。国益次第で政府の対応が変わることもあり得よう。

 スタジオ出演者の寺島実郎、浅井慎平、谷口真由美、安田菜津紀、佐高信、岸井成格ら各氏のうち同法案の必要を説く発言は皆無。同法案の是非を論じた同日放送のNHK「日曜討論」が賛成、反対それぞれ3人ずつの論客をそろえたのに比べ偏っていた。

 司会の関口宏氏は「何をきっかけに疑われるか、戦前戦中のあの暗い時代をご存じの方は分かってらっしゃるけど」と発言し、反対デモで連呼されている「治安維持法」になぞった言い方をした。佐高氏は、「悪いことを考えただけで罰する。考えたかどうかを決めるのも政府というとんでもないところに踏み込んでいく」とコメントし、頭の中まで取り締まるイメージさえつくった。

◆法案の意義に触れず

 「サンデーモーニング」も、マンチェスター自爆テロに「イスラム国」(IS)が犯行声明を出したとして事件を扱い、英当局が事件は組織的に行われたとして自爆犯の兄を含む11人を逮捕、リビアに住む父親と弟はリビア当局に逮捕され、シリアやイラクで劣勢のISが諸国でテロを行う可能性に触れた。

 英仏はじめテロを実行前の計画段階で防止したケースは少なくない。しかし、他国との協力など国際的な取り組みをする国際組織犯罪防止条約の締結に向け「テロ等準備罪」を新設する同法案の意義は全く指摘されなかった。今起きているテロを対岸の火事とし、国内の法整備に戦後70年過ぎてなお、江戸時代末期生まれの加藤高明首相らが大正時代に作った治安維持法の過去を持ち出すのでは反対のための風評に等しい。

(窪田伸雄)