「トランプの米国」で改めてG7サミットの存在意義を問い直す各紙
◆土壇場で分裂を回避
先進7カ国(G7)首脳会議(サミット)が終わった。「北朝鮮問題は国際的な課題の中で最優先事項」で各首脳が一致。首脳宣言には「反保護主義」のメッセージも、安倍晋三首相のトランプ米大統領説得により盛り込めた。
貿易や気候変動では、米国と欧州の首脳の間で溝が最後まで埋まらず今後に火種を残したが、土壇場で分裂を回避できたことは何よりである。
今回のG7サミットについて、各紙はそろって社説で論評を掲載した。見出しは次の通りである。読売(5月29日付)「『米国第一』回避へ結束強めよ」、朝日「価値を守る責務今なお」、毎日「G7の『反保護主義』弱まる/世界への責任果たせるか」、産経「枠組みの価値は維持した/『保護主義』阻む努力を」、日経「今こそG7サミットの意義を問い直そう」、東京「米国は孤立する気か」、本紙(30日付)「米国は『反保護主義』尊重を」――。
「米国第一主義」を掲げるトランプ大統領の登場で、問題を抱えながらも「一定の妥協の枠内におさめた」(朝日)ことを評価。日経の見出しの通り、貿易問題を中心に改めてG7サミットの存在意義を問い直すものとなった。
読売はG7サミットについて、「自由や民主主義の価値観を共有する先進国が足並みをそろえ、世界の平和と繁栄を主導する意義を持つ」とズバリ指摘した。その意味で、北朝鮮の核・ミサイル問題について首脳宣言が「新たな段階の脅威」と踏み込んだ表現で解決を訴えたことを「その意義は大きい」と強調。産経も同様に、G7が「課題の解決にそろってあたることのことの有用性は明らかだ」としたが、その通りである。
◆「内向き」志向を憂慮
産経はさらに、その有用性は主張が対立する経済問題を抱え、対処方法で意見の一致を見いだせなくても同様とし、「G7の枠組みを維持する努力が、さらに必要なことを強く認識させる会合だったともいえよう」と前向きに評価した。それだけ、保護主義を阻む努力、日欧の米国への働き掛けが大事ということである。
その結論はほぼ同じなのだが、今回のサミットに「世界を覆うあまたの課題に、主要国は歩調をそろえて取り組んでいけるのか。そんな危惧を抱かざるを得ない」としたのは朝日である。
首脳宣言に「保護主義と闘う」との文言は入ったものの過去のサミットと比べて表現が弱まった。温暖化対策では米国と日欧の立場の不一致が、難民問題では「国境を管理する権利」が宣言に盛り込まれた。先進国全体が「内向き」志向に引きずられ、開かれた世界を実現する意欲が衰えているとすれば、憂慮すべき事態だ、というわけである。
同紙は、「G7の多国間対話には、世界の安定役として今後も果たすべき責任がある」と強調し、日本を含む参加各国は自由と民主主義の点検を絶えず怠ることなく「国際益」を追求してもらいたい、としたが尤(もっと)もな指摘である。
毎日も朝日の「危惧」と同様に、「国際協調を軽んじるトランプ大統領にこれからも翻弄(ほんろう)されるのだろうか」と懸念を示した。
◆北対応への評価なし
率直に「そもそも何のためにやっているのかを問い直す時がきているようだ」と指摘したのは日経である。
サミットは東西冷戦下の1975年、第1次石油危機後の低迷する世界経済への対応を西側先進国が協議する場として始まり、それから毎年開いてきた。今回の会議はトランプ大統領のほか、マクロン仏大統領、メイ英首相ら新顔が多く加わったこともあるが、「価値観の共有さえ果たしてできているのかと疑いたくなる光景が目立った」のが、その理由である。
日経は、先進国協調への不安要因は米国だけでなく、欧州主要国内でも欧州連合(EU)離脱を決めた英国と独仏などの間で摩擦も生じている、として、「今こそ、サミットの原点に戻って協調を立て直すべきだ」と強調する。確かにその通りなのだが、どう立て直すかの具体的な提言がないのは残念である。
東京は、体系的なビジョンも戦略性も持ち合わせず、目先の損得にとらわれるトランプ流はおぼつかない、「米国の指導力が当てにできない時代になった」と断じるだけで、急を要する北朝鮮への対応などへの評価は、朝日や毎日などと同様一言もなかった。
(床井明男)