文春が「スクープ泥棒」を行っていたとする新潮の告発で業界に激震
◆中吊り広告見て取材
週刊誌業界に激震が走っている。「文春砲」が「新潮」から砲撃を食らっているのだ。文春側は取次会社に配られた週刊新潮の中吊(なかづ)り広告を入手し、コピーして持ち帰り、記事をチェックして、自社にない話題を後追い取材し載せていたという。そうすれば、発売日が同じの新潮に“抜かれる”ことがないからだ。
さらに、文春は雑誌が書店に並ぶ前にサイトに記事を出してしまい、「スクープ泥棒」「スクープ潰し」を行っていたと新潮は告発する。
新潮が最も憤慨するケースとして、「池上彰氏の朝日連載引き揚げ」を挙げた。池上氏が慰安婦問題に関して、朝日新聞に連載中のコラムの掲載を拒否したことを、文春は入手した中吊り広告で知った。そして原稿締め切りまでの数時間で後追い取材を行って、雑誌発行前にサイトに出したというのだ。
新潮は、「(文春が自社の)中吊り広告を作成した時点では、池上氏が朝日から連載引き揚げを決めたことに気付いていなかった」とし、急遽(きゅうきょ)、後追い取材をして池上氏からコメントを取り、それをネットで報じて、「週刊文春のスクープネタとしてまたたくまに拡散」したのだという。
ライバル誌を出し抜くのは週刊誌業界だけでなくあらゆるメディアでの醍醐味(だいごみ)だ。しかし、相手が先んじて得ていた独自情報を“不正”な手段で入手し、“アリバイ的な”後追い取材を加えただけで自社原稿に仕立て、結果的にライバルのスクープを潰すことは、普通に考えても、極めて「卑劣で下劣な手口」である。
◆不正な入手方法示唆
週刊新潮(5月25日号)はこの問題で10ページに及ぶ特集を組んだ。文春に中吊り広告の内容が伝わる“漏えいルート”を突き止め、文藝春秋社の社員が取次会社から中吊り広告を入手し、コンビニ店でコピーしている写真まで撮った。その事実を週刊文春の新谷学編集長に突き付けた。
新谷編集長は新潮記者の質問に対し、肝心なところは「ノーコメント」「お答えできない」などとのらりくらりと回答を避けながら、その一方で、「相手の手の内をどうやってこう……知るかについて、そのプロセスとか、何を入手しているか、していないかはまさに墓場まで持っていく話」と語り、明らかにできない方法で入手していることを示唆している。
さらに、「慌てて〈スクープ速報〉、号外を早めに出しちゃったっていうのはやったけど」「俺が慌てて“巻き返せ”“同着に持っていけ”と指示を出したのは事実」とも語り、事前に新潮の誌面内容を知っていたことは認めている。だが、その情報をどうやって得たのかについては、「うーん、ま、だからさ……」などとはぐらかす。
新潮は記事の後半、識者のコメントを並べた。「週刊誌という媒体にとって自殺行為」(ジャーナリストの大谷昭宏氏)、「スクープ至上主義がそういうことをさせてしまった」(作家で元外務省主任分析官の佐藤優氏)、など、文春を批判する声ばかりだ。それは当然だろう。
◆長年続いた“盗み見”
中吊り広告を渡していた取次会社は、「社内に新潮問題特別調査委員会が設けられ、調査が始まっています」としているが、“いまさら”の感が強い。新谷編集長は認めていないが、文春による新潮中吊り広告“盗み見”は長年続けられていたようなのだ。
「文春社員に中吊りを渡した弊社社員はこの4月に今の担当になったばかりで、“文春とのことは前の担当者から引き継いだ”と話している。前の担当者は5年前に週刊誌の担当になったが、文春の件はやはり“前任者から引き継いだと思う”と言っています」と「取次会社関係者」は新潮の取材に答えている。「『ルーティンワーク』と化し、継続的に行われていた」わけだ。
文春の行為は「『不正競争防止法』の二条六項が禁じる営業秘密の取得に当たる可能性」があり、「偽計業務妨害に当たる可能性もある」と「法曹関係者」は指摘している。それを受けて、新潮側は「本誌が週刊文春を刑事告訴する、という選択肢は残されているわけである」と含みのある言い方をしている。
次の号で新潮の文春追及第2弾があるのか、文春側の反論があるのか、いずれにせよ、週刊誌は売れるということだ。
(岩崎 哲)





