「共存共栄」「反保護主義」謳った「一帯一路」会議に厳しい論調の各紙
◆特に厳しい保守系紙
中国の習近平主席が提唱したユーラシア経済圏構想「一帯一路」に関する国際会議が終わった。「米国第一」を掲げるトランプ米政権に代わり、「共存共栄」「反保護主義」を唱え、新しい世界経済のリーダー役を務める――そんな狙いの会議だったが、各紙の論調は総じて厳しかった。
17日までに日経を除く6紙が社説を掲載。見出しは次の通りである。16日付読売「中国主導で国際秩序築けるか」、毎日「信頼得られる援助構想を」、17日付朝日「中国の資質が問われる」、産経「覇権主義の危うさ拭えぬ」、東京「ウィンウィンが全てか」、本紙「中国の野心に振り回されるな」――。
特に厳しかったのは、やはり、読売、産経、本紙の保守系紙である。
読売社説は冒頭で「中国主導の国際秩序構築に向けて布石を打っても、独善的な振る舞いを改めない限り、日米などの不信感は拭えない」と記し、産経社説も「世界との共存共栄を唱える中国の習近平国家主席の言葉に、どれほどの説得力があったか」と疑念を呈した。道理である。
国内で外国企業の活動を制限し、過剰生産した安い鉄鋼製品は大量に輸出する。「そんな中国が米国に代わって自由貿易を先導するとの主張は説得力を欠く」(読売)からである。またインフラ案件では、インドネシア高速鉄道計画がいい例だが、共存共栄を唱えながら、強引な手法や見通しの甘さから事業が停滞するケースも目立つ。
◆軍事基地化への懸念
保守系紙が特に問題視するのは、「海のシルクロード構想が港湾整備を通じた海軍の拠点確保と表裏一体である点だ」(読売)。
インドがこの会議の参加要請を拒否したのも、このためである。インドは、一帯一路の資金供給源でもあるアジアインフラ投資銀行(AIIB)の加盟国であるが、自国の領土問題に関わる中国の覇権主義的手法に反発。中国が管理権を掌握するパキスタンのグワダル港やスリランカのハンバントタ港、ミャンマーのチャオピュー港などインドを取り囲む「真珠の首飾り」と呼ばれる港湾の軍事基地化への懸念である(本紙指摘)。
産経は「中国を世界の中心に置く新たな国際秩序は、経済、軍事両面での習政権の覇権主義傾向と密接につながる」ため、「中国が国際政治の影響力を強める危うさこそ認識すべきである」と強調するが、同感である。
日米はAIIBにも参加せず、一帯一路会議にも一定の距離を置いている。本紙は引き続き「そのポジションを変えないことが肝要」と強調し、読売は「日中関係はもとより、アジア地域の安定と発展に寄与するかどうかを慎重に」、産経は「世界経済の健全な発展に資するものか、厳しく」見極めねばならない、としたが、尤(もっと)もな指摘である。
◆中国の“良き理解者”
この点で、「部外者でいいのか」と先の3紙と意を異にしたのは毎日である。
同紙は3紙と同様、中国が真剣に「一帯一路」の発展を考えるなら朝鮮半島や南シナ海など周辺地域の安定が不可欠で、「南シナ海で自ら緊張を高めているようでは構想の実現はおぼつかない」と一定の厳しさは示す。
しかし、それでも同紙は「日本はシルクロードの東方の終着点だ。外から批判するだけでは影響力は限られる」として、「中国とも対話を重ね、協力のあり方について考えたい」「是々非々で協力を」というスタンス。習主席が提唱する「平和で繁栄し、開放された道」の実現には、中国自身の体質改善も必要と強調するが、共産党一党独裁の中国にどこまで期待できるか認識の甘さが気になる。
朝日も同様である。同紙は、「中国は外交で不都合な事態が起きると、国際経済のルール違反に問われかねない手段で相手国に制裁を加えてきた」「中国自身が十分に対外開放されているかどうかも問われる」「軍拡との関連の問題もある」などと問題点を指摘。
それが「資質が問われる」ということなのだが、「欧米の世論が反グローバル化に傾く中、中国が経済交流の旗振り役として期待されている面がある。巨大な経済力を背景に重責を担うのは必然だろう」との認識を示す。「千里の道も一歩から。一帯一路構想は、中国の自己点検から始めてもらいたい」と“良き理解者”なのである。
(床井明男)