中国批判の北朝鮮に「自信」を見た「新報道」、「日曜討論」は圧力評価

◆米中朝の新たな展開

 偽札、麻薬が北朝鮮の資金源になってきたことは知られているが、今度は世界中の銀行を狙ったサイバー犯罪が明るみになってきた。10日に米国の上院で情報セキュリティー会社幹部や国家安全保障会議(NSA)長官が証言した。バングラデシュ中央銀行から8100万ドルなど31カ国もの銀行を狙って金を盗んだ可能性があるという。

 トランプ米大統領は就任後、核を放棄しない北朝鮮に対して米国が単独行動に踏み切る構えで制裁の“抜け穴”と見ていた中国を巻き込み圧力をかけた。中国は北朝鮮から石炭の輸入を3月から控えたもようで、国連安全保障理事会の北朝鮮制裁委員会に報告された北朝鮮による石炭輸出量は月当たり100万トンを超えていた2月までと比べ、3月は6342トンに減ったという。

 5月3日に北朝鮮は中国を初めて名指しで批判。国営通信社である朝鮮中央通信が、中国共産党機関紙・人民日報や環球時報について「わが国の核保有は国益に反していると騒いでいる」「中国は無謀な妄動が招く重大な結果について熟考すべきだ」などと批判し、これに4日、中国側が「新たな核実験をした場合は前例のない厳しい対応を取る」(環球時報)などと反論した。

 一方、空母カール・ビンソンの極東派遣など軍事的圧力を強めたトランプ大統領は1日、米メディアを相手に金正恩朝鮮労働党委員長と「会うことが適切なら当然会う」と発言。これら新たな展開から7日放送の報道番組は、もっぱら北朝鮮問題を特集していた。おおむね、出演した論客らの観測は非核化に悲観的で「対話」に至るかは未知数だ。

◆強気の裏に核保有か

 となると、中国の経済圧力の効果が気になるところだ。北朝鮮が中国を批判したことについて、「緊張続く北朝鮮情勢・事態打開の糸口はあるか」を論じたNHK「日曜討論」で触れたところでは、マサチューセッツ工科大学シニアフェローの岡本行夫氏が中国の「本気」を評価。「中国の圧力は相当効いている。初めて中国が本気でこの問題に向き合っている気がする」と述べた。

 早稲田大学教授のリー・ジョンウォン氏は、「おそらく今回、米中首脳会談以来、中国が米国とある種の連携をして、以前にもない形で踏み込んで強い圧力とともに説得を続けたと思う。……それに対する反発は明らか」と述べ、米中の圧力を評価した。

 一方、北朝鮮の中国批判について金正恩氏の「自信」と分析したのは、フジテレビ「新報道2001」だ。番組冒頭、金正恩氏がこのところ金日成主席と金正日総書記のバッヂを襟元に付けなくなったことに着目し、これは父・金正日総書記の遺訓である核兵器保有を遂げ、先代を超えたからだという見方を示した。

 拓殖大学大学院特任教授の武貞秀士氏は、金正恩氏が「非常に自信を持った」と断言。「究極的な核戦力がどうも完成間近まできている。ここまでやったんだから中国を批判しても大丈夫。ロシアもガソリンを送ってくれそうだということで、怖いものなし、敵なし。その金正恩さんに会って話してみたいとトランプさんまで言い出した」と述べ、「これはどうも金正恩さんの独り勝ちみたいな図式になりかねない。乗りに乗っているところでわれわれが驚くような強気過ぎる姿勢が、今、出てきていると思う」と分析した。

 北朝鮮の外側の情勢で見れば圧力に窮しての中国批判と捉えることになろうが、北朝鮮の内側の立場に立って「自信」からの行動というのもうなずける。閉鎖社会であり多くの幹部が粛清され、世襲のライバルだった兄・正男氏も消し去った。正恩氏には自信につながる情報の入り方しかないのかもしれない。

◆対朝制裁を徹底せよ

 となると経済で追い詰められながらも軍事に強い自信を持ったわけで、挑発や暴走を常に警戒しなければならない。

 「日曜討論」では「ソ連は核を持ちながら崩壊した」と法政大学教授の下斗米伸夫氏が述べ、北朝鮮の核への過信を疑問視していた。確かに核兵器で人民や兵隊の胃袋は満たされない。旧ソ連は軍拡競争で疲弊し、売店に長い行列が並ぶ物不足に陥った。北朝鮮の行き詰まりは銀行サイバー攻撃などに見て取れる。

 この国家ぐるみの犯罪を取り締まり、かつ制裁を徹底させるべきである。

(窪田伸雄)